負けないぞ!祭り
□始まりの時
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正直、つい最近までは自覚してはいなかった。けれどアルフォンスとの会話がふと途切れるたびに、視線の先には自分の固い右腕があった。そしてその視線を辿ると、アルフォンスのぼんやりとした瞳が必ずあった。最初は、それがどういう意味かわからなかった自分の鈍感さに腹が立つ。
やっぱり機械鎧を意識してしまうのだろうか?だからエドワードは、多少暑くても長袖を着込み、手袋もしていた。ただ隠していただけでは解決しないということに気付くまで、そんなに時間はかからなかったが。
「おまえと、一緒に暮らせるのは嬉しいよ。でも、それじゃあおまえは幸せになれない。いつまでも、おまえは過去から逃れられない――オレのせいで」
「違っ」
「だから!」
一瞬目を閉じたエドワードは、決意したようにアルフォンスの瞳を見た。
「だから、アル…オレはここを出ていく」
もう鎧ではないのに、アルフォンスの頭は、殴られたようにガンガンと大きな音が響いていた。
「…決めちゃったの?」
「うん…」
掠れた声を意識して兄に聞いて、間髪置かない応えに空虚を感じた。
こんなときは、何て言ったらいいのだろう?何と交換すれば、兄は一緒にいてくれるんだろう?
交換?
こんなときでも錬金術師な考えに、嘲りと苛立ちが込み上げ胸をかきむしりたくなる。
「アル?ごめんな、急に…」
「……」
口をつぐんでしまった弟に、ため息をついた。けれど、これも多少にかかわらず予想していた。
エドワードは、つい撤回してしまいそうな己れを叱咤する。
エドワードとて、アルフォンスと離れたくなんてない。大好きで大好きで、何物にも代えがたい大事な弟なのだ。
でも、自分の欲を優先して、アルフォンスの未来を奪ってはいけない。もう二度と。『あの時』のように、アルフォンスを巻き添えにしてはいけないのだ。
準備出来次第、すぐにでも出ていこう。荷物なんて、たいして必要ない。ちょっと前までは、トランク一つで国中を飛び回っていたのだから。