負けないぞ!祭り

□青と金のキセキ
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 トップが変わってから暫くは軍部内もざわついていたが、最近はようやく以前の静けさを取り戻していたはずだった。
「なんだ?なんだか今日は妙に騒がしくないか?」
 司令官であるロイ・マスタングは、散らばった処理済みの書類を片付けて、待っていた部下に手渡した。
「さあ…でももしかすると、今日は新しい軍医が来ましたから、たぶんそのせいかもしれません」
 長年連れ添ったリザ・ホークアイが、受け取った書類をてきぱきと点検しながらそう答えた。
「ふむ…そうなのか?」
「はい。その関連書類も先週お渡ししておきましたが」
「そ、そうだったな…ははっ…」
 見なかったです、なんて言えない。そんなこと、この鷹の目にはお見通しだろうが。
「後ほど将軍のご予定に合わせて挨拶に来ると言って…あら、こんな時間。呼びましょうか?」
「いや、私が行こう。君はもう会ったのか?」
「いえ。でも、とても美人だって皆が言ってましたよ」
「美人か…いいな…」
 ニヤニヤとやにさがる若き将軍を、チラリと睨む。
「い、いや…ん、うん、あ、アルフォンス!」
 自分直属で、一番若い部下を呼んだ。
「なんでしょう?」
 ロイの前に立つスラリとした体躯は、ほどよく締まった筋肉がついているのが軍服の上からも窺える。5年前は幼い顔だちだったアルフォンスも、すっかり精悍な若者へと成長していた。かつては鋼の錬金術師の弟として名を馳せていた彼だったが、今は錬金術と錬丹術の融合技を使える、おそらく世界で唯一の存在ではないだろうか。その力量は、ロイとて計り知れない。
「君は、新しい軍医には会ったか?」
「ええ」
「そうか…早いな。で、どうだった?」
「そうですね…美人ですよ」
「美人なのか」
「僕には、アメストリスで一番の美人だと思いました」
「そんなにか!?君から見ても、美人なのか…他にきづいたことは?」
 ロイの目の奥が、ほんの少しだけ鋭くなったように見えた。
「他に、ですか。そうですね…敵ではありませんよ」
「ほう。何故そう言える?」
「会えば分かると思います。まだ一度も会ってませんね?」
「わかるか?」
「ええ。会ったなら、そんなこと僕に聞いたりしませんから」
 アルフォンスの口元が、楽しそうに弧を描く。
 なんだかんだ言って素直に感情をぶつけてきた兄と違い、この弟の考えていることは読みにくい。鎧の時は素直だったような気がするが、それも今となってはもしや謀っていたのかと思うくらい、感情の奥深い部分は読ませてくれない。ロイは、またそれも面白いと思っていたが。食えない男に育ったしまったなと、寂しく思ってしまうのも本心だった。
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