今日の兄さん(2014年)

□12月7日
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「うー…いてて…」
老朽化した資材倉庫が、ついに寿命を終えた。それだけならまだしも、中に軍人が入った時を見計らったかのように倒壊するという最悪パターンで。
幸いにも生死に関わる怪我をしたものはいなかったが、それでも軍医であるエドワードが裂傷を縫合する程度の者はいた。
「さて、オレも病院行ってくるか…」
事故があって、それが軍の敷地内であれば、エドワードが呼び出されないわけがない。
そして、呼び出されたら、救助に手を出さないわけがない。
結果、釘か何かをうっかり腕に引っかけ、白衣の上からでもわかる傷を負ってしまった。忙しいと注意力散漫になるのは本当だ。
自分で自分の傷を縫うとかのハードワークはしたくなかったので、とりあえずの手当てをしてから、軍人たちの手当てやらなんやらをして、ようやく落ち着いたところだった。
「ざっくりやっちゃったもんな…」
厚めに巻いたガーゼも包帯も限界だったようで、滲み出た血が白衣を染めていた。
「アルに怒られるかな…」
あの可愛い弟は、本気で心配してくれる。それこそ、心配しすぎて大丈夫かどうかなるんじゃないかとこちらが心配になるくらいに。
「まあ…仕方ねえ…」
考えてみれば、アルフォンスもサボり癖のある上司を抱えた多忙な中佐様だ。こちらのことに構っている場合じゃないし、エドワードの怪我など気づかないかもしれない。それもまた寂しくあるが。
「ちぇ…」
気分が落ちてくると、腕の傷がズキズキと主張してきた。
勤務時間からは随分過ぎた時間だが、管理者であるロイに内線して病院へ行くことを告げる。
「飯、どうすっかなー」
白衣は洗濯してもダメかもしれない。こうして今年、何枚の白衣を廃棄処分にしたことか。
ガーゼと包帯を取り替えて、コートを羽織った。
外は呆れるほど寒く、風がエドワードの髪をもて遊ぶ。
こんな日は特にアルフォンスの肌の温もりが恋しくなって、慌てて頭を振って不埒な考えを散らした。
「……たいな」
唇から溢れた言葉は、木枯らしの中で誰に届くこともなく消えた。


終わり。

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