今日の兄さん(2014年)

□12月6日
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「あれ?兄さん、なに作ってるの?」
さっきまでリビングのソファーの上で長くなって新聞を読んでいたエドワードが、キッチンでコトコトと何か作業をしているのを、洗濯を終えたアルフォンスが見つけた。
「急にさ、食べたくなって…」
洗濯カゴを床に置いて、熱心に作業を続けるエドワードの背後に回り、抱き締め、手元を覗き込む。
「あ、もしかして、スイートポテト?」
「あったりー!」
ホクホクに蒸しあがり.まだ湯気をあげている芋を裏ごし中というところか。アルフォンスは、器と、エドワードの腰を支える手伝いをする。
時々、露わな首筋にキスをするのも忘れない。
「邪魔するなら、あっち行け。」
「邪魔じゃないよ。隠し味だよ。」
兄弟のスイートポテトの味は、師匠のレシピだ。修行の合間で香る、なんともいえない焼きあがりの甘い香りを嗅げば、厳しい運動で瀕死であったはずなのに、たちどころに復活して、二人で先を争って家に駆け戻ったことを思い出す。
砂糖もバターもたっぷり使われた、今でも時々こうして無性に食べたくなる思い出の味だ。
「量、多くない?」
せっせと裏ごしが進む芋達は、二人で食べるには少し多いようで、アルフォンスが訊ねれば、軍に持って行くという。
「ホークアイ大尉と、焼き芋の話になってさ、そしたら、芋つながりでスイートポテトしばらく食ってないって言うから、そういやしばらくオレも食ってないなって。」
漸く裏ごしが終わり、常温で柔らかくしていたバターと、砂糖を混ぜる作業に移る。芋は既に甘くて美味しいので、つまみ食いは欠かせない。
あーんと口を開けて待っていれば、仕方ないなとエドワードが食べさせてくれる。
「美味しい。」
アルフォンスの感想に満足し、今度は卵黄と生クリームがそれに加えられた。更に練って、生地の完成だ。
「もう、待てないよ。」
「味見はしただろ?後は焼くだけ…」
エドワードの言葉を遮り、同じくバター香る甘い唇に口付ける。
「こっちの味見がまだだよ。」
何度も啄ばんで、軽いキスを交わせば、焦れて舌を差し出したのは、エドワードからであった。
応えぬ道理はない。
しゃもじを奪い、振り向かせて抱き寄せる。歯列を舐め、強請る舌を吸えば、腕の中で愛しい人が震えた。
薄い部屋着では、互いの高まりつつある熱を隠せない。
「大佐殿、しばし生地を寝かせましょう。今後の指揮は私めに、お任せいただきたい。必ずや成功してみせましょう。」
膝裏に腕を差し込んで、アルフォンスが抱き上げれば、腕がスルリと首に回り、エドワードが笑う。
「エルリック少佐に、作戦を引き継ぐ。存分に働くがよい。」

「yes,sir !」

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