今日の兄さん(2014年)

□12月5日
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火は、この世の全てを焼き尽くす。


ふいにそんな言葉が浮かび、エドワードは燃え盛る炎を前にして、喉を鳴らした。
目の前で、我が物顔ではぜる火花は、うっかりすればエドワードの衣服など容易く燃やしていまうだろう。迂闊に踏み込めば、薄い靴の裏などひとたまりもない。
「熱いな、ちくしょう…」
こんなとき、アルフォンスがいたら少しは気が紛れたのだろうか。
いや、甘えるにも程がある。
自分で決めたことだ。
「大佐、どうしてっかなー」
炎を操る焔の錬金術師は、指先で業火を思うままに従えていた。
彼ならどうするだろう?この目の前の息づく火を。
パチパチと、枝が燃えていく。
熱せられた空気に乗って、落ち葉が踊る。
「よし…!」
エドワードは、ついに決心して、傍らの長剣を握る手に力を込めた。










「うん、美味しいよ、兄さん」
「甘いナ…」
「だろ!?絶対、落ち葉で焼くほうが甘くなるんだよ!」
執務を終えたリンと城下から戻ってきたアルフォンスが、意気揚々と渡された焼き芋に噛り付いた。
金色の、ねっとりとした蜜を含んだそれは果実より甘いかもしれない。
庭中の落ち葉を集めて、厨房からくすねた芋を焼いたエドワードは、そんな二人の様子に、至極満足そうに微笑んでいた。


終わり。

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