今日の兄さん(2014年)

□12月3日
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東方一帯の軍医代表であるエドワードは、年末ということもあって自宅にも帰れない程度には多忙を極めていた。
「ったく、どうしてこう、どいつもこいつも締め切りを守れないんだか…頭悪いわけじゃないんだから、面倒がってないでさっさと提出してくれればいのによー」
と、常人の3倍の仕事をこなすと言われといるエドワードが、看護師たちを前に愚痴をこぼした。
「こんなんじゃオレ、セ○クスするヒマもねえ」
ついにはとんでもないことを言い始めた。
看護師二人は、あまりのエドワードの壊れっぷりにフリーズするが、まあまあと立ち直るのも早かった。
「せんせー、それ、セクハラですよー」
「え…なんか言ったかオレ?」
「思考が口から零れてますよ、エルリック先生」
トリアとピラウに軽く窘められても、本気で自分のセリフを覚えていないようだ。
「せんせー、疲れてるんですよ」
「だって休めない…」
今度は拗ね始めた。
二十も半ばの男の言動では無いが、エドワードなら許せてしまえる。イケメンの特権だ。
「あ、そうだ!」
常設してあるロッカー室に入っていったピラウは、出て来たときには手に何か包みを持っていた。
「はい、せんせー。それあげるから、弟さんとこ行ってきて下さい」
「アルのとこ?何コレ?」
「いいから!弟さんもランチまだですよ、きっと」
この際仕事中だろうがランチを食べた後だろうが、ブラコン拗らせている中佐なら、一も二もなくなくエドワードに釣られるはずだ。
「いってらっしゃーい」
背中を看護師に押され、エドワードはわけがわからないまま、ほけほけと東方司令部の中枢へと向かった。


「サンドイッチだね」
「サンドイッチだな」
ピラウから貰ったそれは、近頃評判になっているサンドイッチだった。
「これ、わりと頑張って買ってきたんじゃないかな。チキンのサンドイッチはすぐ売り切れちゃうって言ってたよ」
「そうなのか?」
アルフォンスが買ってきたコーヒーを前にして、食堂のテーブル差し向かいでサンドイッチに手を伸ばす。
「うん…美味い」
アルフォンスも一つ手にして、噛り付く。
「肉がふっくらしてて美味しいね。ボリュームあるし」
こうして兄弟が会話するのも久しぶりだった。実は最近、お互いほとんど自宅に戻れてない。
「兄さん、疲れてる?目が赤いよ」
「べーつに!あんな仕事、オレにかかればチョイチョイささっと終わるんだよ!って、え…?」
いきなり、唇ギリギリのとこをアルフォンスにキスされて、目を見開いた。
「ついてたよ。もしかしてドキドキした?」
「ばっ…んなことねーし!」
「そう?」
アルフォンスの目が、ほんの一瞬だけ雄の目になった。
「…ばか。オレだってなぁ!」
「もう少し落ちついたら…しよう?」
兄さんと、したいよ。
耳に残るは、アルフォンスの上質な艶を含んだ声。
「もう少し…じゃなくて、しようぜ」
アルフォンスの手を引いて立たせ、唖然としている弟を無理矢理引っ張っていくエドワードに、食堂にいた軍人たちも廊下にいた軍人たちも、驚きを隠せない。
どこの部屋が一番人が寄り付かないなんて、今更だ。
第二書庫に勢いで入り、扉を閉めた。
「アルフォンス、扉、封鎖しろよ」
鍵だけじゃなく、扉ごと錬金術で消した。
「これでいい?」
「ああ。さて…しようぜ、アル」
白衣をバサリと脱いだエドワードは、アルフォンスの軍服に手をかけながら、妖艶に微笑んでみせた。

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