2周年リクエスト

□Miracle
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「Miracle(ミラクル)」



「おまえ、いい加減にしないとオレ本気で怒るぞ!?」
「怒れば?兄さんだから、何でも正しいって思ってたら大間違いだからね!」
「んだと!?誰がそんなこと言ってるよ!?」
「同じでしょ!?」
 爽やかな青空の下の会話には相応しくない怒声の応酬が響く。ここが軍部の玄関先であるということを考えても、まったく相応しくない。
 普通なら、誰かが止めているだろう。血気盛んな軍人のケンカは、非常に危険だ。殴り合いでも、お互いにかなりのダメージを受ける。それが職務に影響する場合もある。
「てめー…」
「ほら、どけって。何、ケンカ……って、大将たちじゃねえかよ」
「ハボック少尉」
 エドワードたちがまさに掴み合いになりそうな瞬間、建物から騒ぎを聞いて駆けつけたハボックが呆気に取られて兄弟を見ていた。
「止めないでくれよ!」
「ええ、ハボック少尉。これは僕たちの問題ですから!」
 剣呑な表情のエルリック兄弟に睨まれ、昔馴染みのハボックも背筋に冷や汗が伝った。武闘派の彼等に睨まれれば、心底怖い。生命の危機さえ感じる。
 しかし、これで怯んでは、他の誰にも止められない。上司と副官が降臨するまでに、この補佐官と軍医を止めてやらないと。兄弟ゲンカであろうと、これでは何かしら処分される。子供時代からしってる彼等が罰をくらうのは可哀想だと、勇気を振り絞り分けて入った。
「まあまあ…大将もアルフォンスも、玄関先でやるこっちゃねーだろ?話聞いてやるから、ひとまず中へ入ろうぜ」
「ほっといてくれ!このバカに言ってやらないと、後々ケジメがつかねえ!」
「バカって何!?バカ兄の言うことなんて、聞く必要ないね!」
「…だと?」
「だから!まずは中入れって!おまえら目立つんだよ!」
 問答無用、実力行使と、他人には手出ししないと踏んだハボックが、エドワードとアルフォンスの腕を持って、軍部内へ引き摺りこんだ。
 この兄弟がケンカなんて、しかもこんなにハデなのは本当に珍しい。いつもは、恋人同士より濃厚な兄弟愛を見せつけるくせに。必要以上にベタベタして、平気で周りの人間をしょっぱい気分にさせるくせに。
 いったい何があったのだろう。ハボックは、めんどくさそうな「家庭の事情」に首を突っ込むハメになりそうだと密かにため息をついていたが、そこはそれ、生来の能天気さでちょっとだけワクワクしていたのも否定できなかった。
「…もう、いい。オレ、仕事場行くから。ハボック少尉、手離して」
「え、大丈夫か?」
「うん。そのクソバカアルの顔見てたくないし。話したくないし」
「話したら、自分の悪さがバレるもんね」
「なんだと!?」
「ったく!もう、ほら、大将は医務室行け。アルフォンスはこっち!」
 まだ何か言いたそうな兄弟だったが、ひとしきり睨み付けた後、プイと顔を背け別々の方向に歩いていった。
 当然だが、この朝の出来事は、無責任な予想とともにすぐに軍部内に広まった。
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