カフェ『アルケミスト』
□焼いて、焼いて
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いつもよりちょっとだけ、お店が空いていたある日。
「兄さん。そういえば、今日あの俳優さんたちのロケが、この近くであるらしいよ」
「えっ、ホントか、ソレ!?」
「うん。さっきサヨちゃんが教えてくれたんだ」
目がキラキラと輝く兄に、アルフォンスはくすっと笑った。
「なんだよー。おまえだって、好きじゃん」
ぷっと膨れる顔が、とんでもない可愛い。
そんなこと言ったら、本格的に怒り出すので言わないが。
「好きだよ。兄さんの次にね」
「…っ…は、恥ずかしいやつ…」
「ふふっ。僕はいつでも兄さんが一番です」
「お、俺だって!」
「知ってるよ」
客から死角なのをいいことに、エドワードの柔らかな唇を掠めとる。
「っ!おまっ!」
カアッと赤くなるのが可愛い。
キスなんて、もう何百回もしてるのに。
「ねえ。差し入れ、しようか?この前も来ていただいてるし、喜んでくれるかも」
「いいな。じゃあ、俺、パン焼くから。タネまだあるし。あと、サンドイッチかな。おまえは?」
「僕は、アップルパイとマフィンかな」
「じゃあ、出来たのから、どんどんオーブン」
「りょーかいvV」
二人、手分けして作り出していく。
「兄さん、デニッシュ焼いたの?」
「うん。リンゴのデニッシュ。ソレは後で、フレンチトーストにして食べよ?」
「うん!」
アルフォンスは、まるで宝物のように、リンゴのデニッシュを端に避けた。
エドワードが、以前から楽しみにしてた物で、やっと時間をみて焼いたものだった。