宝物殿

□『Monochrome Effect』
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渡里様のステキ小説オッドアイシリーズはコチラから…Pearl Moon


ヒラヒラした黒いスカートから白いパニエが、そして同色のレースのオーバーニーソックスに包まれた足が露になる。
太股から爪先まで綺麗に伸びた足は、襲い掛かる男を容赦無く蹴り飛ばした。それからフワリと宙に舞い、ツインテールを揺らしながら右の拳を男の腹へと叩き込む!
「ぐぅ……っ」
勢いと体重――だけではない衝撃に、男は苦悶の声を上げた。
地面に転がった男を、少女が見下ろす。薄暗い部屋の中でも解る白い肌と金の髪。同じく金の長いまつ毛が上がるのに、男は状況を忘れて見惚れていた。
赤と金の瞳。白と黒の衣装の中で、輝石を思わせる鮮やかで華やかな一対。
けれど今までの『獲物』の中でも極上な少女は、レースの手袋に包まれた指をビッと下ろして言ったのだった。

「てめぇが、連続暴行魔か……その腐った根性、この『オレ』が叩き直してやる!」

……その事件は、まだ公になってはいなかった。
それは、被害者が女性――なのは当然だが、少女ばかりだったからだ。命こそは取られなかったが、家族や当人が悪い噂が立つのを厭い、発覚するのに時間がかかったのだと言う。
「被害者の共通点は年齢の他にもう一つ、ある占い師の元を訪れたという事だ」
「……って、それならその占い師が怪しいんじゃねーのか?」
執務室に呼ばれ、隣でアルフォンスと共にロイの話を聞いていたエドワードがそこで眉を寄せた。それにテロなど絡んでいない事件に軍人で、しかも准将になったロイが直々に動く理由が解らない。
「ここまでの話だけならな。しかし、占い師は清廉潔白なんだ」
「何で言い切れるんだよ?」
「当然だ。部下を信じない上官がどこにいる」
「…………は?」
エドワードはアルフォンスと顔を見合わせ、次いで音のする勢いでマスタング組の面々へと目をやった。確かに一人、この場に不在の者がいる。
「……あー、ま、確かにファルマン准尉で暴行魔はねーよな」
「少尉だよ、兄さん……情報収集ですか?」
「あぁ、なかなかよく当たると評判になり、任務に役立っていたが……不幸にも、今回の事件に巻き込まれてしまった」
言葉に反した笑顔で続けるロイに、アルフォンスは嫌な予感を覚えた。
これでマスタング組が動く理由は解ったが、今になって自分達兄弟に声が掛かる理由が解らない。いや、どちらかと言うと解りたくない。しかし、彼らの上官はそんなアルフォンスの逃避など認めてくれなかった。
「頼むぞ、鋼の」
「……てめぇ、何考えてやがる!」
そう言って、笑顔で机の上にワンピースや靴、挙げ句の果てに下着まで並べたロイにまずエドワードがキレた。咄嗟にアルフォンスが羽交い締めにしなければ、確実に殴り掛かっていただろう。しかし止めたのは、あくまでも兄の手を汚させない為である。
「……ボクも反対です。どうして兄に、そんな危ない真似をさせなくちゃいけないんですか?」
アルフォンスは、怒りと声のトーンが反比例する傾向にある。
それ故、彼が静かにそう言った途端、一斉に視線が集まった。もがいていたエドワードまで固まったが、ロイはと言うとまるで動じていない。
「鋼のだからこそだ。まさか、一般人を囮にする訳にはいくまい?」
「それは、確かにそうですが……中尉も駄目だって言うのなら、フュリー曹長だって」
「えっ、アルフォンス君っ!?」
いきなり話を振られたフュリーがギョッとするが、兄の為なら自分は悪魔にだってなれる。だがそんなアルフォンスの上官は、更に一枚上手だった。

「そう言えば、まだ君に賭けの景品を貰っていなかったね」

にっこり、と笑顔で告げたロイにアルフォンスは思わず舌打ちをし掛けた。
賭けとは以前の、ほぼ騙し討ちに近い『アレ』だろうが――確かに、自分はまだロイにポトフを作っていない。
(いや、そりゃあ、兄さんを危険に晒すよりはマシだけど……)
そうは思うが、この年齢以上に育った身長や体格ではそもそも無理だろう。そう思ったアルフォンスだったが、兄の考えは違ったようだ。
「オレの可愛い弟を、そんなケダモノに差し出すなんて冗談じゃねぇっ!」
途端にいきり立つエドワードの目は、完全に節穴だった。
「アルと女の敵は、必ずオレが捕まえてやる!」
そしてアルフォンスが止める前に、兄はキッパリと言い切ってしまったのである。
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