宝物殿

□誘惑しないで!
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※アルは奥様方に大人気のフリアナタレント、兄さんは一般人大学生。年齢逆転してます。




大学が終わった後、街なんかぷらぷらしてるとよく寄ってくるアレ。
街頭インタビューってヤツ?オレはアレがあんまり好きじゃない。
テレビに映りますよーとか記念品がーとか。興味ないし、つまんねえノベルティーもらっても使わねーし。あんな誘いについてっちまう奴はよっぽど暇か、他人の話を断れない気の弱い奴なんだと思う。

だからコイツがマイク片手に声をかけて来た時、オレは聞こえない振りをしてその横を素通りするつもりだった。
普通はそれで終わり。しつこく追っかけたりして来ないし、オレは友達が待ってるカラオケに約束の時間通りに到着できる筈だったのに。




「では、あなたのお名前と年齢、職業を教えてくださーい」
「…エドワード、二十歳、大学生、です…」
「大学生か〜!可愛いですねー!恋人とか、いるのかなー?」

オレの隣に立った男は、逃がさないとばかりにオレの背中をばかデカい手で押さえ付け、笑顔でマイクを向けてくる。

コイツ知ってる。確か「美形すぎるアナウンサー」とか言われて話題になってた奴だ。高校の時クラスの女共が大騒ぎしてた。写真集とかも発売して、スポーツ選手並みに鍛え上げられたセミヌードを披露して一躍時の人になった奴。
俳優に転向とか言われてたけど結局フリアナになって、結構色んな番組に出てるのを見る。別にファンじゃないから、名前とか忘れたけど。

背中を押さえ付けられてマイクを突き付けられ、正面にはテレビカメラで撮られている居心地の悪さにオレが口籠ると、そのフリアナは急に真顔になってマイクの位置を少し落とした。

「いるの、いないの」
「…は?」
「恋人だよ。いるの?」

急に声のトーンが落ちて、囁くように問いかけられる。

「いない、ですけど…」

ちょっと怖くなってオドオドと答えると、マイクがオレの口元まで再び浮上し、フリアナはまた満面の笑みをカメラに向けた。

「今日は渋谷で見つけたこちらのエドワードくんとお送りしていきまーす!お楽しみにー!」

二回も聞いたくせにオレの恋人の有無はどうでもいいみたいな締め方をしやがる。どうせなら恋人募集の告知を電波に乗せてくれ。絶賛募集中なんだから。

フリアナがカメラに向かってテンション高めに手を振りながらオレの肩を引き寄せると、カメラの横のタイムキーパーらしきスタッフが指でカウントを取り始めた。
3、2、1…とカウントが終わると、フリアナは漸く手を離してくれた。

「あの…」
「アルフォンスさん、メイク直しまーす!」
「あの〜…」
「十五分後にスタジオと中継繋がりまーす!移動お願いしまーす!」

カメラや照明スタッフの人は慌ただしく動き回り、オレの呼び掛けに対応してくれる暇な人はいないらしい。

「エドワードくんごめんね〜、ちょっとだけだから付き合ってね〜」

いた、暇な人。
急いでるんで、と街頭インタビューを断ったオレを取り押さえた張本人は、さすが芸能人と言うべき眩い笑顔でオレに笑いかけた。

「あの、オレ本当に急いでるからもう行きたいんですけど」
「ごめんね、すぐに終わるからあと少しだけ付き合ってくれないかなあ?」
「テレビとか、出るのホント困るんです。用事もあるし」
「あと十五分だけなんだ、お願い!終わったらすぐに解放するし、お礼もするから!」

渋い顔をしていると、この通り!と拝み倒してくる。どうしたものかとオレが困り果てていると、ちょうど待ち合わせしている友人から携帯に着信が入った。

「あ、オレ…わりぃ、今すぐ…」
『エド、お前「街ドリ」出てんの!?』
「は?街ドリ?」
『テレビだよテレビ!F局の夕方のバラエティ番組!ワンセグつけたらお前出てたから、こっち皆驚いてたんだぜー!』

携帯越しに賑やかな声がするのはカラオケに集まっている友人達が馬鹿騒ぎしているんだろう。

「なに、そんな人気ある番組なのかコレ」
『人気あるよー!番組っつうかそのアルフォンス・ホーエンハイムのコーナーがね!』

今度は電話をかけて寄越した奴じゃない友人が電話口に出て、アルフォンス・ホーエンハイムのサインを貰うか写メを撮ってきてくれと言ってきた。

「つうかオレ、番組とか出たくないしそっち行きたいんだけど…」
『せっかくテレビ出てんだから最後まで出ろよ!勿体ない!』
「だっ、だって今日のN女との合コン…!」
『それなんだけどな…予定より女の子が集まらなくて、今ちょうど5、5なんだよ。いい感じだから、お前は来ないでくれ』
「…ええええっ!?」
『後で埋め合わせするから、来ないでくれ。ごめん』

電話は一方的に切られた。
ブツン、ツーツーと虚しい電子音を聞きながら項垂れたオレの肩が、誰かに優しく叩かれる。顔を上げるとフリアナが極上の笑みを浮かべて微笑んでいた。

「用事、なくなったみたいだね」

オレはこのインタビュアーから逃れる理由も失って、またがっくりと項垂れた。





*

オレが捕まったのは夕方のニュース番組帯のいちコーナーで、放送日の月曜から金曜までの毎日街に飛び出しては話題の店や新しいスポットを生中継で紹介しているらしい。今日、金曜日の進行役がこのアルフォンス・ホーエンハイム、件のフリーアナウンサーでタレントの、コイツ、という話。


オレは何故だか手を繋がれて、しかも手の繋ぎ方は互いの指を交互に重ね合わせる俗に言う所の恋人繋ぎで羞恥心と不信感を否応なしに煽られながら、番組内で今日紹介するというカジュアルフレンチのレストランに連行された。
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