宝物殿

□Feverish
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※オッドアイシリーズの詳しい設定などは、渡里様サイトへ…Pearl Moon

 
 

旅をしていた時も、兄さんが体調を崩さなかった訳じゃない。いや、むしろ無茶ばっかりしてたから、よく倒れたり潰れたりしてた。
「兄さん……大丈夫?」
「……へー、き……」
だから今回はかすれた声でも、返事が出来るだけマシ──って考え方も、出来るんだろうけど。
セントラルで大流行してる風邪だって、原因が解ってて。嫌がる兄さんを半ば無理矢理、病院に連れて行ったからあとは回復を待つだけなんだけど。

「その賢者の石ってさ……やっぱり、使えないの?」

だけど、扁桃腺が腫れてしまってるから熱はまだ下がらなくて。
普段、こっちが困るくらいに我慢強い兄さんが、こうして大人しく横になってるって事は──相当、辛いって事なんだ。
(あの頃より……ちょっと?は大きくなったけど)
聞いたら途端に暴れるだろうから、ボクは心の中だけで呟いた。だけど、いくら体が成長してても辛い事には変わらないだろうし──認めよう。ボクが、苦しんでる兄さんを見てるのが辛いんだ。
以前、撃たれたボクを助けてくれた賢者の石。兄さんの左目にあるそれは、右目同様熱に潤んでボクを見返してくる。
だけど、続いて返されたのは。
「……バーカ」
ポスッ。
叩くって言うより、ベッドの横に腰掛けてるボクの膝に、乗っかってきたもの──それは生身の左手の、熱で全然力の入ってない、でも今の兄さんには精一杯の拳だった。

「使えねぇんじゃなく、使わねぇんだよ」
「……でも……」
「痛い思いして、注射したんだから……すぐに治る。だから、使わねぇよ」

これだけの会話でも辛いのか、兄さんは苦しそうに咳き込んだ。慌てて枕元に置いていた水差しを手に取って、兄さんのカサカサになった唇に宛がう。
「……ふぅ……」
水を飲んだ後、一つ息を吐くと兄さんはボクに笑って見せた。
だけどその顔は熱で真っ赤になっていて、気が付くとボクは兄さんの頬に手を伸ばしていた。
「……冷てぇ」
「熱があるからだよ……ねぇ、兄さん……」
「使わねぇよ……オレだけじゃなく、他の誰にも」
「ボクには使ってくれたじゃないか」
ボクの掌に、兄さんが気持ち良さそうに熱い頬を緩める。
こんなに高い熱があるくせに、兄さんは頑なだった。そりゃあ、ボクだって賢者の石が何で出来てるかは知ってるけど──。
(馬鹿兄。親不幸……じゃなく、弟不幸しやがって)
思わず唇を尖らせたボクに、兄さんは色違いの目を見張った。それから、真顔でキッパリと言う。

「アルには、じゃなくてアルだから、だろ」

……本人、全くの無自覚での殺し文句に撃沈する。
そして熱じゃなく、恥ずかしさに赤くなった顔を掌で隠しながら、ボクはチラッと兄さんを見た。
「……ボク、医療系の錬金術覚えようかな。それか、錬丹術」
「あ?」
「だったら万が一、兄さんが寝込んだり怪我しても安心だよね……うん、そうしよう」
昔、メイに錬丹術の基礎(認識?)は教えて貰ったけど、完璧に習得したとは言い難い。
でも、資料ならメイに頼めば取り寄せられるだろうし、医療系錬金術ならマルコーさんに話を聞く事も出来る。
新たな目標が出来たのに、ボクはグッと拳を握った。
そして、何て言うべきか解らず(賢者の石を使うのでも、悪い事でもないからね)困惑する兄さんに、ボクはニッコリ笑って見せた。

「ボクも頑張るけど、だからって無茶したら……怒るんだからね、兄さん?」




☆渡里様!萌え萌え兄さんありがとうございました!変態な感想ばっかりメールしちゃってすみません。あまりにも色っぽい兄さんだったので、頭の腐敗が進んだんです。

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