短編

□水の生まれる街
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 川が町を育て、水が命を育む処。

 ふと道端の側溝を覗くと、鯉が泳いでた。
「可愛い…」
 買ったばかりの名物牛のコロッケを食べながら、エドワードは呟いた。
「なぁ、ア、ル…」
 アルフォンスはいないってことに気づいた。
 なんだか、胸がもやもやしてきた。
 エドワードとアルフォンスが、この地を再訪したのは昨日の夕立だ。以前は友人兄弟と来た。とても楽しかったし、くつろげる地だったので、再びアルフォンスと来ることにしたのだ。今度は二人でだったが。
「アルのばーか…」
 自分が言い出したことなのに、アルフォンスのせいにしてみる。
 そう、提案したのはエドワードだった。
 曰く、一人自由行動してみて夜の話のネタにしよう、と。
 アルフォンスはちょっと考えた様子だったが、エドワードの他愛ない遊びに付き合ってくれた。
 車で一緒に、水の流れる小道の近くまで行き、エドワードはそこで降りた。
 アルフォンスはこの後どうするのか、わざと聞かなかった。
「アルの、バカ…」
 もう一度呟いて、コロッケ屑がついた服をはらって、鯉やアマゴのいる川へと向かった。
―― 兄さん、口元にもついてるよ ――
 そんな声が聞こえたような気がして、口元もちゃんと拭った。
 川の縁ではエサが100円で売っていたので、貯金箱みたいな料金箱にコインを入れる。
「あ…」
 つい、いつものクセで、二つ分のコインを入れてしまった。
 罪は無いと思っていても、料金箱を膨れっ面で睨み付けてやった。
「二つなんていらねー…」
 悔しまぎれに一つしか取らない。
「アルが悪いんだからな!」
 エサを指先でちょっと摘まんで川に放り投げると、アマゴがバシャバシャと寄ってきた。
「うわっ…」
―― ほら兄さん、濡れるよ ――
 反射的に振り向き、ガッカリした。
「くそっ…」
 腹立ちまぎれに、エサの袋を川の上で逆さまに振って空っぽにして、来た道を引き返した。
 もう、一人じゃイヤだ。アルがいなくちゃ…
 アルと一緒じゃないとダメだ。
 アル…
 アル!
 気づいた時には、走り出していた。
 どこだ?アルフォンス、どこ?
 やみくもに探すには、町は広くて見つからない。
「あ、あの!」
「はい?」
 アンパンマンの三輪車に女の子を乗せている、親子連れに声をかける。
「城!積翠城ってどっちですか!?」
「城なら、そこの道ですが…けっこうありますよ?」
 二歳くらいの女の子がキョトンとエドワードを見て、にっこり笑った。
「ありがとうございます!」
 礼を言って、また走り出した。
 距離があるのは分かっている。
 でも、一刻でも早くアルフォンスに会いたかった。
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