今日の兄さん(2011年)

□12月10日
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 年末最大級のイベントが間近な近頃では、軍の若い連中もお相手探しの日々らしい。こんなに忙しい勤務をこなしながら、まだまだ体力があるのは驚きだ。体力というか、執念ともいうそれは、合同コンパという陳腐な手立てにも必死になる。
「エルリック少佐〜!」
「最初、ちょこーっといて下さるだけでいいんです!」
 穏やかな笑顔で応じているアルフォンスだが、ハボックたち古くからの面々から見れば、不機嫌極まりないという目の色だ。
 多少だらだらしてるが、一応仕事はしている。早く終わらせて、司令官を煽って今日の仕事をさっさと終わらせなければ、定時で帰れないじゃないか。今日は久しぶりに、二人でのんびり過ごそうと朝話したのだ。明日は二人共に非番だから。
「でも、僕が行ってもつまらないと思いますよ?」
 なによりアルフォンスで女子を集めても、アルフォンスがいなくなれば話も続かない想像が容易にできる。
「…何、話してんだ?」
「兄さん」
「あ!エルリック先生からもお願いします!エルリック少佐に、合コン参加していただきたいんですよ!」
「合コン…?」
 書類を持ったままのエドワードの顔が歪む。眉間にシワが寄って、見るからに不機嫌そうだ。
「に、兄さん!僕行かないから!」
「そんな!エルリック少佐が頼りなんですよ!」
 ああだのこうだの言い始めた軍人たちを、しばらく無表情で見ていたエドワードは、ふいに腹をおさえた。
「あ、いたたたたた…」
「兄さん?」
「うー…腹が急に…いたたたたた…」
 突然始まった寸劇のようなエドワードの様子に、軍人たちはポカンと口を開けたままだ。
「兄さんっ!大丈夫!?」
 対するアルフォンスの顔は、なんだか必死だ。まさか本気にしてるんじゃないよな…と聞けずにいる。てか、エルリック先生演技力無さ過ぎだ。
「兄さん!ああ、どうしよう…病院…いや…」
 普段は冷静沈着なアルフォンスに、この状況をどう説明すれば…
 軍人たちの頭も痛みだしてくる。
「アル…家帰って休めば大丈夫だから…でも、一人じゃ帰れない…」
「大丈夫だよ、兄さん。もちろん僕がついていくから。ねえ、本当に病院行かないでいいの?」
「うん…大丈夫だから…」
「わかった。では、すみませんが、定時ですし、僕は帰りますから!」
「あ、はあ…」
「お疲れ様でした…」
 わけがわからないまま、上司であるアルフォンスに応えた。
 まだ動けないままでいれば、その間に司令官に許可を取り帰り支度をしてエドワードを促して帰ってしまった。
「おい…」
「ああ…エルリック先生てば、エルリック少佐をよっぽど合コンに出したくなかったんだな…」
 そう思ったが、あの痛い演技に抵抗する技なんて持ってない。あの兄弟を敵にまわすほど、人生に未練が無いわけじゃないし。
「…合コン、頑張ろうな…」
「ああ…」
 失敗する確率濃厚な今夜は、いつもより格段に足どりが重かった。






end

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