今日の兄さん(2011年)

□12月8日
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『フォーチュンテラー』





 わざと薄暗くした部屋には、エキゾチックな香がアロマランプからほのかに漂って流れている。
 邪魔にならない程度だが、リラックスさせる効果があるらしい。
「――大丈夫ですよ。きっと、あなたの納得する展開が待っています。西へ行ってごらんなさい。今月のあなたの吉方向は西ですから。そこでのラッキースポットはカフェです。カフェに誘ってみてはいかがでしょう」
 よく当たると評判の占い師であるアルフォンスは、淀みない口調で次々と告げていく。
「ラッキーカラーはピンクです。ピンクの服は持っていますか?――ええ、それでいいですよ。ピンクのワンピースを着て、メイクもしてみて下さい。そんな気合いの入ったメイクじゃなくていいんです。――普段はしてない?では、尚更。ええ……頑張って下さいね。幸運を祈ってますから」
 テーブルを挟んでカードを捲りつつアドバイスをしていたアルフォンスの前から、手を握りしめていた聞いていた女性が財布を出して幾ばくかの紙幣をテーブルに置いた。
「ありがとうございました。なんとか、頑張れそうです!」
「いえ、頑張ってみて下さいね」
 小さな扉から出ていく姿を見守って、アルフォンスは小さなため息をついた。
「よう、占い師」
「兄さん。いつからそこにいたのさ」
「さっき来たんだよ」
 アルフォンスの控え室になっている部屋から、エドワードがひょっこり顔を覗かせた。
 キラキラと濁りなく輝く金髪が動き、思わず目を細めた。
「しっかし、相変わらず胡散臭いよな」
「えー。それなりに当たるって評判なんだけど」
「占いは統計学だ。ある一定のデータを重ね合わせて計算していけば、確率の高い事柄が見えてくる。それに加えて、結論をはっきり言わないでほどほどに濁せば、なんとなくそれっぽく聞こえてくる。例えば…さっきの客みたいに、普段メイクしない女がメイクしてピンクのワンピース着て、カフェにターゲットの幼なじみの男を誘い出したら、大抵の男なら何かあるなって思うだろ。幼なじみなら尚のこと、好きでも嫌いでも相手が納得するように話を進めるはずだ。ちょっと冷静に考えてみれば、そんなのよくある事だって分かりそうなもんなのに」
「それが占いだよ」
 テーブルに広げたカードを纏めながら、アルフォンスが笑った。
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