今日の兄さん(2011年)
□12月6日
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『仕草』
この季節、雨は大敵だ。寒いわ気圧は変わるわ湿度高くなるわで、エドワードは愛用のフリースを体に巻きつけて、窓の外を睨んでいた。
遠目で見ている看護師二人が苦笑している。
「災難でしたよねー、こんな日にストーブ壊れちゃうなんて…」
「別に…後で直しに来てくれるって言ってるから」
フリースの中で、痛み始めた左脚を、そっとさする。
「…ガキの頃は、こんな雨なんて何でもなかったのに…」
尤も、多少の不調には気づかないくらい、意識は外に向いていた。否、気づかない振りをしていた時もあったが。
じわじわと神経を引っ掻くような鈍痛は、激痛より不快感では上だ。イライラしてくる。
「ちょっと…練兵場に行ってくるかな…」
思いついたが、暖かなフリースをなかなか手放すことができない。
「失礼します。ストーブ、直しにきました」
「アル…」
「遅くなってすみません。担当の者が他の修繕に 行っちゃって。でも、医務室だと、この寒さじゃ必需品だろうと思って」
「すみませーん」
「こちらです。よろしくお願いします」
エドワードと一瞬目が合ったが、目的物を見つけたアルフォンスは、躊躇なく医務室の奥に入ってきた。看護師たちに促されて、問題のストーブを前にする。
カチャカチャと部品を外していくアルフォンスの指の動きを、エドワードはぼんやり見ている。
長くて男らしい指が、ストーブの奥を探ったり開いた口を撫でたり――
なぜかドキリとした。
あ、や、ぁ…?
心臓の音が煩い。耳が熱くなっていくのがわかる。耳どころじゃなく、顔が熱い。けれど、目が離せない。
指一本だったり、二本で探ってみたり、外から見ていても中で動かされているのが分かる。第一関節を曲げて、器用に何かを摘み出した。
クリッと挟んだ指で、見守っていた看護師たちにも見えるよう捻ってみせた。
エドワードの胸が締め付けられるような感覚に襲われて、体の中心がズクリと脈打ち重くなる。
「――ここですね。もう分かりましたから、すぐ直せますよ」
軽く手を鳴らして、必要な箇所だけ錬成する。やみくもに全部新しくするのではなく、最小限に留められたそれは、鋼の二つ名を継いだ者に相応しい天才的な錬成だった。
「終わりました。…兄さん?」
「ん!?あ、さ、サンキュー、アル」
「どういたしまして」
看護師が早速稼働させる。
「兄さん」
「う、あ…な、なんだよ?」
離れて見ていたエドワードのところに、いつの間にか近寄ってきていたアルフォンスが囁く。
耳に熱い息を感じて、反射的に目をギュッと閉じて首をすくめてしまう。
「このまま、二人で暖まらない?」
一瞬で、エドワードの膝の力が抜けた。
後ろ手に机にすがって、アルフォンスを見る。
どんな顔をしてるかなんて、今のアルフォンスの目を見れば分かる。
きっと、とんでもなく――
肩にかかっていたフリースが、パサリと床に落ちた。
end