今日の兄さん(2011年)

□12月5日
1ページ/1ページ

 窓から見えるのは、もうすっかり冬の景色で、アルフォンスはぼんやりしていた頭を軽く振った。
 それから、薬棚を開けて、必要になりそうな薬をチェックする。こんな陽気なら、体調を崩す者もいるだろうから、あらかじめ予想しておいて準備をしておくほうが良策だ。
「エルリック先生!」
「はーなーせーっ!!」
「急患でーす!」
 2人の屈強な部下に、拘束されるように医務室に入ってきたエドワードは、口はまだまだ達者のようだが、顔色は明らかに悪い。バタバタ暴れていたが、いつものような力強さもない。
「ご苦労様。兄をそこのベッドへお願いします」
「YES,sar!」
「エルリック少佐、いい加減に観念して、早く治して下さいね!」
「いーやーだー!」
「皆さん、ありがとうございました。後は、僕が」
「よろしくお願いします!」
 部下2人にあっさり見捨てられ、ムクレたエドワードだったが、ダルさには勝てないのか諦めたのか、ベッドに崩れ落ちるように体を横たえていた。
「兄さん」
「…っせーよ」
「だから今朝言ったのに…」
「今朝は大丈夫だったんだよ!」
 アルフォンスが軍服の前を開けてても、たいした抵抗はしなかった。
 ヒヤリとした聴診器を胸に当てられて、エドワードの体がビクッとしていた。
「はい、これ。熱あるから、ちゃんと計ってね」
「無いってば」
「僕の予想では、39度前後だね」
 はい、と体温計を渡されて、渋々受け取った。
 その間様子を観察しながら、薬棚から薬を取り出す。
「39度2分」
「…平気だ…」
 あくまでも認めたがらない兄に、正直ちょっと苛ついた。
「治療しなくちゃね。注射するから」
「ヤダって!寝てりゃ治る!」
「いい加減にしてよね、兄さん。そんなに注射がイヤなら、もっと別の方法にしようか?」
「えっ…」
「病人には手荒なことしたくないんだけど、兄さんが望むなら」
 エドワードの横たわるベッドに、アルフォンスの片膝が乗り上げてくる。
「え、いや、あのっ、アルッ」
 ベルトに手をかけられて、必死に守る。
「兄さん…」
「いや、あ、っ……」
 無防備になった唇に、 アルフォンスの唇が重ねられて、薄く開いた隙間から舌が侵入してきた。
「んんっ…んっ…」
「…兄さん、やっぱり凄く熱いよ。ちゃんと薬飲んで寝て治そう?」
「…わかった」
 もう抵抗しても無駄だと悟ったらしく、ようやく治療に協力する気になったらしい。
「じゃあ、下脱いで」
「なんで!?必要ねぇだろ!」
「坐薬だから」
「却下!注射でいいから!」
「ふふ…ダメだよ、兄さん。これは治療なんだから」
 身の危険を感じたエドワードがベッドでジタバタしても、アルフォンスはアッサリとエドワードの下半身を裸にした。
 熱のせいだけじゃなく、激しい動悸がする。
「おとなしくしててね、兄さん」
 にこやかに迫ってくる軍医で弟には、軍で5指に入る武闘派と謳われたエドワードもまったくといって適わないと知っている。
 窓の外では木枯らしが吹いている。
 こんなに寒くては風邪が悪化すると、軍医であるアルフォンスに判断された。その弟に付き添われたエドワードが自宅に帰ることになったのは、エドワードが医務室に担ぎ込まれて2時間後のことだった。





end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ