今日の兄さん(2011年)

□12月4日
1ページ/1ページ


「三昧」





 旅行を満喫すべく有休を取ることに成功した兄弟は、空港に降りてからレンタカーを借り、ガイドブックで目星をつけていたうどん屋に行った。せっかく来たのだから、上手いと名高い名物を味わわないなんて勿体無い。
「ここか?」
「うん。ムードのあるうどん屋さんだね」
 コートなんてジャマだと、車から出た兄を追って、アルフォンスも列に並ぶ。
 うどんの個数と温かいほうだと告げて、ドンブリに入ったうどんをもらう。横にズレて、天ぷらを選び代金を払ってから、ネギと七味唐辛子をかけて汁をかける。セルフ式のうどん屋なんて、エドワードたちは初めてだったが、自分たちで好きにカスタマイズできることに胸が躍った。
「目玉焼きを天ぷらにするなんて、僕初めてだよ」
「オレだって。でも、なんか楽しいな!」
「そうだね」
 混むと評判の店だったのに、風の当たらない店内で座って食べられたのはラッキーだ。
 簡単な食事だったけれど、十分に満足できた。
「ごちそうさまー」
 ドンブリをシンクに置いて、店を出る。
「すっげー満足!」
「僕も。でもさ、ものすごく早く食べちゃったね」
「営業職の職業病だな。でもさ、時間たくさん使えるから、いろいろ楽しめるぜ?」
「そうだね…ホテル、スイートルームだし?」
「ばーか!んな事じゃねえよ」
「そう?僕は期待してるんだけど」
 ハンドル握るアルフォンスが、意地悪く笑う。
 前を向いてるままのエドワードは、顔をしかめているくせに真っ赤だ。
 しばらく無言だったが、エンジン音にかき消されない程度の声で、ボソリと呟いた。
「…んな、当たり前のこと、いちいち言うんじゃねえよ」
 耳まで赤く染めた兄をチラリと見てしまった。
 どうしようもない衝動に駆られたアルフォンスは、この後の予定をすべてキャンセルしても、もっと有意義な時間を過ごしたくなってしまう。絶対に怒るだろう兄をどうやって説得しようかなどと、不埒な考えを巡らしていたのだった。




end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ