青と金のキセキ2

□あなたのカボチャになりたいと願う
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 清潔感を何よりも重視される医務室は、ほとんどが脱脂綿や包帯などの医療消耗品の白色と器具の金属の銀色で構成されている。殺風景だが、具合の悪い人間が訪れる場所なのだから、多彩色な物は必要でない。窓から見える景色だけが、色彩というものを感じさせる。
 しかし、このところこの無機質な部屋にもある色の物体が加わっていた。
「できたー!」
 部屋に嬉しそうな楽しそうなエドワードの声が響く。シン、とした部屋には本当に響く。
「先生…」
 眉間に深いしわを寄せ呆れた様子のトリアの視線は、オレンジ色の物体から目が離せないでいた。
「可愛いだろー?」
 いいえ、むしろ凶悪です、と言えたらどんなにいいか。エドワードの彫像のように美しい手のひらには、この時期さして珍しくないジャックオランタンが、非常に珍しい凶悪な表情で鎮座ましましていた。ジャックオランタンというのは、普通不気味だけれどどこか愛嬌のある表情がウリなんじゃないかとトリアは思う。しかし、エドワードが制作するお化けカボチャの顔は、本当に悪魔でも見たんじゃないかと思うくらい愛嬌というものを削ぎ落としていた。先日間違って買った雑誌の特集に出てた、グール(食人鬼)みたいだ。それはそれで高レベルなのかもしれないけれど。
 男性にしては白く細い指でオレンジ色の悪魔の首を可愛くて仕方ないといった風に撫でまわしているエドワードは、自身の出来栄えに艶かしい目をしてウットリしている。小悪魔とか淫魔とかの代名詞がピッタリだ。
 見てるほうが恥ずかしくなって、トリアのほうがため息混じりに視線を反らした。けれど、反らした先にもジャックオランタンがある。
「…それで幾つ目ですか…もうアチコチいっぱいなんですが…」
 窓枠にも机にも、手のひらサイズのカボチャが置ける場所には、ズラリと並んだジャックオランタンはホラーだ。
「だって、可愛いじゃん。でもまあ、これが最後の1個だから」
「よく医療用メスでこれだけ器用に作りますね」
「うん。だんだんと慣れてきたからさ」
 慣れるほど作るなと責めるトリアの視線をサラッと無視して、出来上がったばかりのジャックオランタンにちゅっとキスをして、キョロキョロと辺りを見渡して電話の横に飾った。
「さて…」
 どうするのかと見ていると、着替えなどが置いてある医務室に隣接して作られてるロッカールームへ入っていった。3メートル四方の、着替えるだけの部屋だ。
 そして、トリアが自分を囲むオレンジ色の憎い奴らを自慢のナイフの標的にしてやろうかと不穏なことを思い始めたころ、ようやくエドワードが姿を見せた。
「じゃーん!」
「あ」
 この建物内では極々ありふれた標準とも言える服装だが、エドワードがきちんと着るのはこれが初めてという青を身に纏っていた。
「軍服なんて、いったいどこから…」
 呟いて気がつき赤面した。どこからもなにも、ここには腐るほどある。大方、資材管理の人間をたぶらかして手に入れたのだろう。ご丁寧に少佐仕様だ。
 ピラウ早く戻ってこないかな、と願う気持ちは今ごろ休暇を満喫している相方には決して届かないのは謂わずもがな。
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