青と金のキセキ3

□拍手ログ倉庫
1ページ/10ページ

「財布」
軍医兄の場合



 昼休みに食堂へ行こうと思って、エドワードは引き出しから財布を手にした。
 いつもは一々財布を持っていって買うのが面倒という理由で、食券をある程度まとめて買っておく。今日はちょうど使い切ってしまっていたので、買っておくつもりだった。
「んじゃ、行ってくるな」
「…せんせー」
「ん?」
「せんせーの財布って、ソレでしたっけ?」
 ピラウが指す先には、エドワードが持つ愛用のがま口財布があった。
「うん。ずっとコレ」
「年季が入ってらっしゃいますね」
 トリアも気にはなっていた。年頃の男子が持つには、イマイチ違和感がある。気にしないようでいて、エドワードはわりと趣味がはっきりしていたから、余計に。
「ああ、これ?んー…もう10年以上使ってるかな?」
 そんなに使ってるとは思わなかった。どうりでくたびれた感じがしている。
「でも…お札とか入れにくい…て言うか、あんまり入らなくないですか?」
 けっこう大きめのがま口でも、お札は折らないと入らないから、ついパンパンになりがちなのががま口財布の難点だ。
「先生、本とか結構高価な物を、よく衝動買いなさってますよね」
 普段は、給料の割にあまり贅沢はしないエルリック兄弟だが、兄弟揃って本だけは躊躇わず購入すると聞いていた。それにしては、今のエドワードの財布は、そうパンパンになってもいない。
「ああ…」
 ちょっとはにかみながら口を開いた。相変わらず可愛いとナースたちは感心したが、口から出た言葉はあまり可愛くなかった。


「小切手、きるから。そういう時は」


 小切手か。23歳で当座預金を持っているか。ああ、元国家錬金術師だったっけ。てことは、11歳の頃からか。
「昔からだから、慣れっこになっちゃってさ。大金持ち歩くより、安全だし」
 表情が強張って固まったナースたちに、良い子の笑顔で答えた。
「んじゃ、行ってきます」
「…いってらっしゃい」
「…ごゆっくりどうぞ」
 扉が軽い音をたてて閉まった。
「せんせー、20代前半男子の平均お小遣いって知ってるかな?」
「知らないでしょうね…」
 今更ながら、自分たちの上司が子供の時から高額所得者だったことを実感したナースたちの午後だった。


end
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ