青と金のキセキ

□青と金のキセキ3・後
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 暑くて重くて、息苦しい。見えない何かに、ずっしりとのし掛かられているよう。
「痛ぇ…」
「起きた?兄さん」
「アル…」
 この世で一番優しい声が聞こえて、エドワードは目蓋をゆっくり開けた。光が目に飛び込んで、眉間を寄せる。目が慣れてくるにしたがい、弟の心配そうな顔が見えてきた。
「苦しい?お水、飲む?」
「う、ん…」
 まるで自分の喉じゃないみたいに、声が出しにくい。頭の中がジンジンするような不快感がある。
 グラスの水を口に含んだアルフォンスの唇が、エドワードの唇に重なって、口腔に流れ込んできた。コクリとエドワードが燕下する。
「もっといる?」
 頷くエドワードに、何度か施した。
 そのうち、触れ合うだけでない、アルフォンスのキスまで欲しくなってねだってみるが、それはまったく無視されて唇は離れていった。
「ここ、家か?」
「うん。昼間兄さん、医務室で倒れたんだよ」
 医務室で倒れるってのも何だけどね、とアルフォンスは少し笑ってみせた。
「僕に連絡がきてね。……将軍が、連れて帰っていいって。あの人、何だかんだ言ってるけど、昔からあなたに甘いよね」
「オレ、倒れた?」
「うん」
「そか…」
 情けないやらなんやら混ざった顔を見られたくなくて、エドワードは顔を腕で隠してしまった。
「熱、あるよ。少しだけど」
 その腕を外し、代わりに濡らしてタオルを額に乗せる。
「気持ちいい…」
「それくらいには、発熱してるってこと。ちゃんと寝ててね」
「寝てたってムダだよ。ウィルス性のものでも、炎症でもないんだから」
「でもね、心配だから。兄さんのナースからの伝言。銀髪美人からは『医者の不養生って、今どきはもうおもしろくないですから、早く復活してくださいね』って。黒髪美人からはコレ」
 枕元に、レースやリボンで可愛らしくラッピングされた包みが置かれた。
「何、これ?」
「『気休めかもしれないけど』って」
 アルフォンスに体を起こしてもらい、開いてみた。
「湿布。と、鎮痛剤か…わ、注射セットまで」
「いいナースだね」
「おまえ…注射器見る目つきが怖いぞ」
 エドワードの本能が、それをアルフォンスに渡しちゃダメだと言っている。
「そう?ヒドイなぁ」
 クスクス笑いながら、エドワードをもう一度ベッドに寝かした。
 再びタオルを乗せて離れようとするその腕を、掴んだのはエドワードだった。
「兄さん、ダメだよ。休まないと」
 無言で聞いていて、アルフォンスの目を見ているが、手を離してくれる気配はない。それより、更にグッと力が入った。
「兄さん」
「ヤだ」
「ヤだって言われても…」
「わかるだろ?」
 熱のせいもあるのか、いつもより潤んだ瞳に脳髄を直撃されて、アルフォンスの理性はグラグラ揺さぶられる。
「…でも、ダメ…兄さん、わかってよ。僕だって…」
 これで負けちゃダメだと、アルフォンスも抗う。
「早く、元気になってよ。ちゃんと休んで…なんなら近くの機械鎧技師呼んでみようか?」
 そんなのでは痛みは引かないって分かっている。アルフォンスにもエドワードにも。
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