青と金のキセキ

□青と金のキセキ2
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 ロイの元へ、近頃めっきり有名な軍医から「渡したいものがあるから後で行く」との内線連絡があった朝、わざわざ軍医に来てもらうのはしのびないという建前で、部下では事足りないのか聞いてみた。
『あ?プライバシーに関わることだから、直接あんたに渡す。うっかりでも見られたら、きっとイヤだろうから』
「君がそんな気遣いしてみせるなんて、いやはや歳月の経過を感じるよ、エルリック先生?」
『朝っぱらからイヤミ言ってんじゃねーよ。医者ってのは個人情報が漏洩しないように、けっこう気ぃ使ってるんだ。あんたバレてもいいんなら、掲示板に貼り出しとくけど?』
「う…いや、では後でよろしく頼む…」
『最初からそう言やぁいいんだ。じゃな!』
 言葉が終わらぬうちに、ガチャッと切られた不快な音が耳に残った。
 相変わらず、ロイに対しては敬語も礼儀も無しだ。
「将軍!軍医殿へ何か用事ですか?」
「宜しかったら、私が行きましょうか?」
「いや、私が!今ちょうど手が空いてますから!」
 軍医との電話と気付いた部下の何人かが、すかさず立ち上がる。
 こんなところにまで、彼の信者がいたかと、ロイは軽く驚く。あの小さな豆だったヤツが、ガサツで乱暴で豆だったヤツが、変われば変わるもんだなと思考を飛ばしていたが、昔の彼を暴露してみてもだからどうしたと言われそうで。むしろ「子供の頃はヤンチャだったのね」くらいで済まされそうだ。鋼の錬金術師は有名だったし。それより「子供の頃の事を今更出すなんて」とロイのほうが好感度が下がるだろう。
 かと言って、目の前のゴツい部下たちの初恋した乙女のような目を見てるのもシャクにさわるし、気色悪い。
 ロイは立ち上がり、部下の眼差しをスルーして、大部屋から自分の執務室へ移動した。
 扉を閉めるとき、残念そうな声がしたことも、この際聞こえなかったことにしよう。
 ため息を深く吐き出し、座り心地の良い椅子の背に体を預ける。机の上には、未処理の書類が連なり、見ただけで勤労意欲が削げるということを、あの副官は知っててやってるのだろうか。もっとも、そんなこと言ったもんなら「日々のサボリ癖を治してからおっしゃってください」とか言われるに違いない。ロイは、自分はなんて不幸な将軍なんだろうと無理矢理凹んでみたが、誰も慰めてくれないのは分かりきっているので、不毛な思考はストップさせた。
「いや、まてよ…」
 ふと思いついた事を実行してみようと思った。
「大尉、軍医殿を呼んでくれないか?何か私に用があるらしくてね。彼も忙しいだろうから、早く済ませてやらないと」
 大部屋に再び顔を出した上司に突然言われたリザは、不審な目付きでロイを見たが、エドワードが絡んでいるとなると思い直したようだった。
「…わかりました」
 エドワードくんならウソでもなさそうだし…と呟いていたが、すぐに内線を取ってくれた。クールビューティーと言われた彼女は、昔から彼に甘く、優しく微笑んでいた。彼もまた、弟のように彼女になついていた。
「すぐに来るそうです」
 その瞬間、静かなどよめきがおきた。エドワードのファンは、軍部内に密かにしかし確実に増えているらしい。
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