負けないぞ!祭り

□続・青と金のキセキ
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 定時をだいぶ過ぎたが、いつもよりは残業が少なく終わり、アルフォンスは安堵の息をついた。外はすっかり夜になっていて、細い三日月がゆっくりと闇に浮いていた。
「まさか、軍医になってるとはな」
 ロイの呟きが耳に入り、アルフォンスは書類を点検する手を止めて、かの将軍を見た。
「君は知っていたのだろ?アルフォンス」
「ええ。―――兄弟ですから」
 伏せ目がちに答えたアルフォンスを、この部屋の主はいつになく真剣な眼差しをしてみせた。黒い瞳は、アルフォンスを無言で威圧する。これが若くして将軍職司令官についている男の力なのだろう。
 隣の大部屋にいた副官も、アルフォンスに後を任せて先程帰路についたところだ。
「何の目的だ?」
「何が、ですか?」
「君と、鋼の――エドワードが入軍した理由を聞かせてくれないか?」
「…あなたを助けるためですよ、将軍。恩返しだと思ってくだされば結構です」
「…ふん」
 張り付けたような微笑みを見せるアルフォンスを、ホントに食えないヤツに育ってしまったと嘆いてみても始まらない。
「しかも、軍医か…」
 窓から見える月の色に、かつての部下の錬金術師を思い出した。
「将軍。みんな誤解してますが、兄さんは錬金術が使えなくなっただけで、知識を失ったわけではないんですよ」
「知識?しかし、それでは…」
「術が発動しなくなっただけで、膨大な知識は兄さんの中にまだ存在しています。人体についての知識量を生かして医者になるというのも、選択肢に含まれていただけです」
「理論、か…それはそれでまた…」
 自分が組み立てた理論を実践できないとは、どんな気分なんだろう。普通は、自分の力量前後の理論しか組み立てられないから、ロイにもそれはわからない。知識だけが先行している錬金術。いや、錬金術と呼べるかどうか。
「将軍。今日の業務は、これで結構です。どうぞ…お帰りください」
「あ、ああ…君は?」
「帰りますよ。ああ、車はもう玄関に回してありますので」
「そうか。では先に失礼するよ」
 帰り仕度をして扉をから出ようとするロイに、静かに敬礼した。
「ああ、もう一つ。君は兄のことを…」
 そこまで言ったロイの目を、まっすぐに見るアルフォンスは、瞬きも視線を逸らしたりもしない。
 ただ、射抜くかのように兄と良く似た金の瞳で見つめていた。
「大切な人です。命の次に大切なものを、惜し気もなく僕のために捧げてくれた人です。愛さずにいられるわけがない」
 そう言うと、今までロイが見たことのない、慈愛に満ちた表情をしてみせた。それはほんの一瞬だったけれど、それで十分だった。
「そうか……」
 兄弟の幼い時から見てきたロイは、その絆の深さも知っていた。
 ただ、幸せになってもらいたいと願うのは、大人のエゴなのだろうか。
「帰るぞ」
「お疲れさまでした」
 扉が開いて、パタンと閉まった。
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