負けないぞ!祭り

□青と金のキセキ
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 感極まった嬌声が夜の静寂に溶けた後には、二人分の荒い息使いだけが、闇に響いている。
「な…後悔、してないか?」
「何に?」
 ゆっくりと体を離したアルフォンスは、未だに潤んだままの金色の瞳を見た。細い顎やなだらかなラインの項も魅力的だが、一番惹き付けてやまないのは、そのいつも炎が宿っている金色の大きな目だとアルフォンスは思っていた。それが今は、アルフォンスだけを見ている。
「いろいろ…オレとこうしてることとか…」
「しないよ、後悔なんて。したことなんて、ない。こんなキレイな人が、僕の傍にいてくれることに、むしろ感謝してるよ」
「キレイじゃねえよ…」
「キレイだよ。誰よりも強くてキレイ」
 赤い唇に誘われて、ついばむようにキスをする。目を閉じて、唇から伝わる情報だけに集中する。だって、何度味わっても、丁寧に味わわなくちゃもったいない。
「オレ、親父似だぜ?おまえ、ファザコン?」
 クスクス面白がってるのが憎らしい。
「それはちょっと…でも、兄さんだって僕のこと好きでしょ?僕は母さん似だよ。兄さんはマザコンだね」
「兄弟だから仕方ねえよ」
「うん。兄弟だもんね」
 でも兄さんはキレイだよと、情欲の跡を、兄の汗ばむ胸元に残す。小さな尖りが目について、舌先でついイタズラした。
「ばか、あんまり…」
「感じちゃう?」
「明日は仕事だろ?」
「そうだね。ね、後悔してない?」
 アルフォンスはエドワードの目を見据えたまま、彼の機械鎧のままの左脚を撫でる。生身の継ぎ目は、殊更優しく、確かめるように。
 稀代の錬金術師と言われたエドワードが、弟の体と引き替えに己れの真理とも言える錬金術を失ったのは5年前。そのことについては何の後悔もないエドワードが、生業として選んだのは医学の道だった。医者として、錬金術のリバウンドを含めて、苦しんでる人を助けたい。それが旅をして得た答えだった。
「ばーか…」
 暖かい両腕が、アルフォンスを抱き締めた。
 エドワードの匂いが、アルフォンスの鼻孔をくすぐり、再び下半身を重くする。
「愛してるよ、アルフォンス」
「愛してる、兄さん」
 再び体を甘い痺れが支配する。
 わずかにあった躊躇いは、腕の温もりに溶けて消えた。
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