負けないぞ!祭り

□北のロマンス
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 休みを利用してきた北の大地の朝市は、兄弟にとってとても新鮮な光景だった。
 カニや魚や野菜が、驚くほど安く並んでいるのだ。はっきり言って、物産展の半額から30パーセントくらいの値段。安すぎる。
「すげえ…」
「このアスパラガスなんて、僕らのとこで買ったら、千円はするよね」
 アルフォンスが見ているアスパラガスの束は、390円の値段がついている。
「送れるんだって!アル、せっかくだからいろいろ買って行こうぜ!」
 言ってる間にも、カニの爪の試食をさせてもらったエドワードの目は、キラキラと輝いていた。
「おっちゃん、そのカニくれ!」
 いくつにします?との問いに、まさかの「全部!」と答えている。
 アルフォンスも安いなとは思ったが、まさか1箱全部とは。たしかに、普通に買えば1パイ4〜5千円はする毛ガニだが。それでも、箱買いって…
 それだけではない。
「あとなー、その鮭…うーん…5匹。お、イクラも安いな。何パックあるの?10?んじゃ、それも全部。ウニは、そーだな…それ10くらいでいいや。ボタンエビ150円?デカイなぁ!あ、20匹な。あと…」
「ちょっ!兄さん、待って!」
 慌てて止めるアルフォンスの声など、聞いちゃいない。もはやハンターと化した兄エドワード。
 安い。たしかに安い。格安だけど、そんなに買って、二人で食べきれるはずがない。店の従業員のお土産にも限度がある。
「兄さん、待ってってば!」
 電卓を出しながら、兄の言ったものの値段を次々に足していく。
「兄さん、持ち合わせには限度があるんだよ!」
 そう言ってるうちに、ソイ(魚)が一箱追加になってしまった。
 リミッターの切れた買い方は兄らしいが、アルフォンスの頭はそれどころではない。目の前の電卓の数字と、財布の中身の諭吉さんで思考が支配されていた。
「あー、楽しかった!」
「よ、良かったね…」
 送料含めて、ギリギリ間に合った。朝なのに、一日クリアしたくらい疲れを感じたアルフォンスだった。


「え?これ、そんな値段でいいんですか?」
「いいんだって!1コインで北の味覚味わってくれ!」
 後日、店長エドワードの一声で、豪勢なウニ・カニ・イクラてんこ盛り丼定食がわずか1コインで客に出されると知って、クラクラ目眩がしたアルフォンスだった。
「兄さん…ウチはカフェなんだよ?」
 キッチンのアルフォンスは、知らずに流れる涙をそっと拭いた。


end

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