負けないぞ!祭り

□rain
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 天気予報でも傘のマークが多くなってきたなと思ったアルフォンスは、ふと気付いた。
「ね、兄さん。兄さんの傘って、どれ?どこに置いてあるの?」
 自分の傘は、玄関の横の収納庫に入れてある。が、先日たまたま開けたら、折りたたみ傘と長傘と一本ずつしかなかったのだ。もちろん両方とも、アルフォンスが引越しした際に持ち込んだものだった。
「え、傘なんか持ってないぞ」
「…なんで?」
 案の定というか、ほぼ予想していた答えが返ってきた。
「だって、オレ濡れても大丈夫だぞ。吸血鬼が水を怖がるなんて、俗説だ!」
「いやいや、そういう意味じゃなく。濡れると困るでしょう?気持ち悪くない?」
「別に…」
 某女優のようにそっけなく言うと、ぷいっと膨れてしまった。
「傘、持ってないの?」
「…だって、持ち歩くの面倒だし。濡れたって、乾かせばいいんだし…なんか…………余計、小さ……見えるし…」
 そこか。
「そんなことないよ!兄さんの気のせいだって!」
「…でも、いらないし…」
 他にも理由があるのだろうか?単に持ってなくて買うのが面倒なんだろうか…
 まるで子供がグズるような態度に、アルフォンスはため息をついた。
 
 

 
「これ、安かったんだ。でも僕は一本あるから、良かったら兄さん使ってよ」
 広げて差し出された傘を、エドワードが受け取った。ビニール傘なのだが、小さな赤い傘模様が付いていて、遠目からは赤い水玉に見える。
 実は、兄には内緒だが、コンビニなんかで手に入る物ではない。最近の女子に人気のカジュアルブランドの品だった。
「オレ、変じゃないか?」
「雨の日に傘ささないほうが、変だと思うよ」
「そ、か」
 先日とは違い素直に聞いているエドワードの口元が、僅かに歪んで嬉しさを隠しきれていない。そんな兄の様子に、アルフォンスも満足気に微笑んだ。
「あ、あとね。ついでに長靴も買ってきたんだ。だって兄さんの靴、革靴だから、濡れるとなかなか乾かないんだよね。臭くなるでしょ」
 そこまで一気に言って、兄の前に出した。
「って、赤じゃねぇかよ!」
「黒とかは、丁度のサイズが品切れだったんだよ。でも、赤くてもシンプルだから、男性用だよ。最近の女子の長靴って、いろいろ模様がついてるでしょ?」
「そうだっけ…」
 あまり自分のファッションに興味ないエドワードが、女子のファッションまで見てるわけがない。
 もちろん大ウソだ。
 アルフォンスは、兄を可愛く仕上げるなら、多少のウソをつくなら罪悪感など感じない。むしろ、良いことをしてると思っていた。
 赤い水玉(本当は赤い傘模様)の傘と真っ赤な長靴を受け取ったエドワードは、満更でもない様子で、長靴を触ったり傘を開いたりしている。結局のところ、エドワードは弟からのプレゼントなら何でも嬉しいのだ。
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