青と金のキセキ4

□一日遅れのホワイトデー
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 バレンタインデーほどの盛り上がりはないけれど、恋人同士にはなかなか大事な記念日でもあるホワイトデーは、あと数分で終わろうとしていた。
「兄さん、どうしたんだろう・・・」
 いつもなら自分より早く帰宅しているはずの兄は、未だに自宅には存在せず、定時より少し遅くなって帰ってきたアルフォンスは時計を見ながら本日数度目の溜め息をついた。
「今日はそんなに大きな事件とかは無かったような気がするけど・・・」
 東方司令部付きの軍医であるエドワードは、他の支部管轄で事件事故があった場合でも召喚されるときがある。
 しかし、それほど大事件のことは、司令官補佐官のアルフォンスの耳にも入ってない。
「また、なにか厄介なことになってなきゃいいけど」
トラブル引き寄せ体質のほうも限りなく心配だ。
 今日のためにと、せめてものご馳走をとテーブルに並べた数々の作品も、すっかり冷めてしまった。
「仕方ないけどね・・・」
 コーヒーでも淹れようと、ソファから立ち上がった瞬間に、玄関から音が聞こえた。
「兄さん?」
「・・・ただいま。まだ起きてたのか?」
「おかえり。今日は兄さんの顔を見てから寝ようと思ってたから。お風呂用意してくるね」
「いや、シャワーでいい」
 ようやく帰ってきた兄は、疲労の色も濃く、それを隠そうともしない。珍しいことだ。
「あ・・・ホワイトデーだったな。ごめん・・・」
 テーブルの上の料理に気づいて、アルフォンスにすまなそうに謝ってきた。
「いいよ。仕事?」
「ああ・・・ちょっとな」
 コートを受け取ってから、抱きしめる。
 が、スルリと逃げられてしまった。
「兄さん?」
「あ、ああ・・・オレ、汗かいてるし、シャワー入ってくるから」
 アルフォンスの顔を見ずに言う。
 何かおかしいと思うが、スープくらいはと温め直して、兄が出てくるのを待つことにする。
 クツクツと火が通り、キッチンから良い匂いが溢れる。
 エドワードの好きなチキンを使ったホワイトシチューだ。にんじんやジャガイモを大きく切って作ったが、こんなことならコンソメスープのほうが良かったかなと考えていた。
「アル、いい匂いだな」
「うん。シチューくらいなら食べられるでしょ?」
「・・・うん」
 器をテーブルに置いて、髪を乱雑に拭いていたタオルを受け取る。
「うまい」
「良かった」
 髪を拭き終わるまでには、エドワードも全部食べてくれた。
 とりあえず、食べてくれたなら少しは安心だ。
「今日は、どうしたの?なにかあった?」
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