青と金のキセキ4

□忍夜恋曲者
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 食事している時、大概の人間は開放的になるものだ。
 司令部の食堂も、昼時になれば広さもあってかなり賑やかに、あちこちから楽しげな会話が聞こえてくる。
「えーっ、そんなの絶対無いって!」
「でも、エルリック先生、こいつは効くって噂なんですよ!」
 苦笑して半分も信じてないのが丸わかりなエドワードに対し、向かいあう軍人は小瓶を握って真剣な表情だ。
「噂だろ?」
「でも、これで彼女ゲットしたやつが本当にいるんですって」
「そんなの、彼女もそいつを知ってて、飲ませたやつのことまんざらじゃなかったら、効いたフリしてオッケーすんじゃねえ?だいたい、まったく知らない他人からそんなのもらって、簡単に飲むわけないだろ。嫌いなやつなら、尚更。元々、両想いだったんだよ」
 胡散臭そうに見ながら、本日の特製ランチ通称特ランのクリームシチューを美味しそうに食べる。
「えー…そう言われると…」
「うーん…エルリック先生の言い分も説得力あるしな…」
 エドワードの周りでわいわいやっていた連中が、うんうん考え込み始めた。
「じゃあ…エルリック先生は信じないんですね?」
「精々、効いたから好きになったと思い込むプラシーボ効果くらいじゃねえ?」
「それなら…飲んでみてくれませんか?」
「へ?」
 思わずマヌケな声が出た。
「いや、それは…」
「やっぱり、ちょっとは信じてるんじゃないですか?」
 惚れ薬って…と、ニヤニヤ笑われてムカついた。
 巷で騒がれている惚れ薬だが、人の感情を左右するような、もし存在したら国の最高機密になるような薬がそうそうバラまかれるはずがない。
 飲めばたちどこに恋心を抱くなんて曖昧なもの、エドワードはハナから信じていなかった。
「んなことねえ!」
「そんなこと言って、本当は怖いんじゃないですか?」
「違うって!っ、かせっ!」
「あ…」
 所謂売り言葉に買い言葉というやつだ。
 エドワードの前でチラチラ振られていた小瓶を奪って、蓋を開けるな否や一気に飲み干してみせた。
「せ、先生っ」
「大丈夫ですか!?」
 慌てたのは周囲の連中だ。一応安全だろうが、万が一何かあったら大天使の弟が黙ってはいないだろう。考えるだに寒気がする、
「んー?特に何も変わらないけど…不味い」
 眉をしかめて空いた小瓶を返してきたエドワードに、ホッとした。
「なーんだ」
「じゃあ、やっぱり紛い物かあ…はぁ…」
 見るからにガッカリした連中を放って、シチューの最後の一口を平らげたエドワードは、ご馳走さまと手をパンと合わせた。
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