夜想う曲―ノクターンを君に ―
□薫香(クンコウ)
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アルフォンスは、本当に自分といて幸せなんだろうか?
傍らで安らかな寝息をたてるアルフォンスを、エドワードが見る。
ヴァンパイア故に夜目がきき、ヴァンパイア故にこうして毎夜アルフォンスの体液を貪っているあさましい怪物。
自分はアルフォンスに何をしてあげてるだろう?
何をしてあげられるのだろう?
洗濯も掃除も下手で、料理すらできなくて、アルフォンスばかりに負担をかけている。
自分の食事さえアルフォンス任せで、自分一人の時は薔薇の生気しか食さない。
やはり自分はアルフォンスから離れたほうがいいのでは、と思う。わかっている。
でも、もう離れたくない。離れて生きていけない。
いっそ死んでしまうということも考えたが、そう簡単に死ねないのがヴァンパイア。
昔は日光に弱いとか水に弱いとか言われてたらしいが、先人たちはきっと面倒くさくなって、塵などに一時姿を変えて死んだように見せかけたのだろう。
自分だって獣や怪鳥や妖蜘蛛などに変幻するが、それがアルフォンスの何の役に立つのか。
「ごめんな、アル…」
オレはおまえを消費させることばかり。
「ん…兄さん?」
閉じていたアルフォンスの目蓋がゆっくりと開く。
「…ごめん。起こしちゃったな」
月明かりに輝きながら艶然と微笑む兄を、ギュッと抱きしめるアルフォンス。少し腕が震えている。
「兄さん…夜食、いる?」
普通の食事では十分とは言えない自分を、いつもいつも気づかってくれる優しい弟の指先が、腰から下に滑っていく。
「大丈夫だよ。さっきおまえにたくさん貰ったから…」
涙がでるほど、優しさが嬉しい。自分だって体液を吸われて疲れているはずなのに、エドワードにいつも与えてくれようとする。
まだしっとりと弛んでいる蕾は、アルフォンスの指に吸いついてきた。
「遠慮しないで。僕も兄さんと、シたいよ…」
ベッドに倒され、エドワードの金色の目が赤く染まり、再び金色に戻るときには窓からキラキラと朝日が射し込んでいた。