夜想う曲―ノクターンを君に ―

□メタボリック症候群
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『メタボリック症候群』


 ある時ふと思いついたアルフォンスは、隣で気だるそうに横たわる兄に聞いてみた。
「吸血鬼って、血吸いすぎると、やっぱりメタボになるの?」
「…ならねーよ。そんなに吸ったら死んじゃうじゃねーか。大騒ぎになっちゃうだろ」
「でもさ…高脂血症とか血糖値高い人とかさ、現代だと多そうじゃない?高カロリー血液」
「いや…そんな人間は、首が太くて血管まで歯が立たない…」
「あー;;」
 エドワードの、あまり恐怖感のない乱杭歯…むしろ八重歯…を見たことのあるアルフォンスは納得する。
「で、でもっ!最近は女の子も夜遅くまで外フラフラしてるから、その辺はラクでしょ!?」
「……夜フラフラしてる女の子ってのはな、スナック菓子や添加物たっぷりのジュースで生きてるようなもんで、そんな血液美味いと思うか?」
「あ…;;」
「うっかりすると、二週間くらい風呂入ってない『汚ギャル』なんてのもいるし。そんな首噛みたくない」
「…臭そうだね…;;」
「日頃から食生活含めてきちんとした生活の女の子は、夜もきちんと寝ている。都会から離れると、夜遊ぶ場所もないし…」
「……処女も最近は少なさそうだよね…」
 嘆かわしいことだが、最近は初体験の低年齢化が進んでいることが、統計にも出ているそうだ。
「…おまえは処女だったな…」
「…男だし;;あ!それなら、そういう女の子の部屋に忍びこめば!?吸血鬼って、映画でよくそーいうシーンあるじゃない!」
「雨戸ガラガラやって?ちっとも静かに入れないし、下手すりゃ親が起きてきちゃうじゃねーか。家って、城みたいにデカけりゃともかく、深夜静かだと音意外とに響くんだぞ…第一、女の子の部屋に忍び込むなんて…恥ずかしい…」
「うっ…」
「第一、きちんとした食生活で処女だからって見境なく血吸って、うっかり吸血鬼化させちゃったら、オレ子育てしなくちゃなんねーだろ…?そんなんで、子連れでフラフラしてたら、すげー不審者だろ?警察来ちまう。面倒くせー」
「でも…オーガニック系食生活で年頃の処女って…あんまりいなさそう…」
「だから吸血鬼って絶滅寸前なんじゃねーか…元々血吸って生きてる生き物なんだから、固形物の消化力も弱いし。食ったって、あんまり栄養吸収できないし」
 言われてみれば納得する。
…だから、液体栄養源みたいな血吸って生きてるんだ、みたいな。
「具合悪くたって、寝て治すくらいしか方法無いから。健康保健とか無いし。薬も効かないし。ケガは一瞬で治るのに、不便でさあ…」
「…なんだか切実な話だね」
「不老不死なもんだから、ちょっとやそっとじゃ死ねねーし。死ねなくて、もうずーっと寝たきりな吸血鬼もいるってらしいぞ。もちろん、介護の手もない…」
 聞けば聞くほど悲惨な話が出てくる、現代吸血鬼事情だ。
「現代じゃヴァンパイアハンターなんて職業も無いし…もっとも相手が絶滅寸前なくらい少ないんだから、金にならない商売だもんな、リスク大きいわりに。職業『ヴァンパイアハンター』じゃ税務署も納得してくれないだろうし」
 もしや白熊より数が少なさそうな吸血鬼。コアラのように、保護してあげてもいいのではないだろうか?
「オレも、健康には気をつけなくちゃ…おまえも、変なもん食べちゃダメだぞ」
 真剣に語るヴァンパイアな兄を、一生守っていこうと決心したアルフォンスだった。


end

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