カフェ『アルケミスト』
□焼いて、焼いて
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裏の扉が開く音がして、アルフォンスが店に戻ってきた。
「ただいま、兄さん」
エプロンをつけながら、キッチンに入ってくる。
「おー。おかえりー。会えたか?」
「もう、すっごくキレイだったよ!俳優さんじゃなくて、マネージャーのお兄さんのほう!キレイだけじゃなくて、可愛い?頭もキレそうな知的な雰囲気で!衣装とかメイクとかしてないのに、キラキラしてるんだよ!店に来てくれた時と仕事中って、違うんだね〜!」
大興奮した後、思い出してるのか、うっとりした目をしている。
なんとなく、エドワードにチクリと刺さるものがあった。
「すっごく喜んでくれたよー!あ、握手くらいしてもらえば良かったかなあ!?ねえ、兄さん!?…兄さん?」
「…良かったじゃん。おまえ、ファンだったし。間近で見られて」
そう言って、エドワードは笑った…つもりだった。
「兄さん?何でそんな悲しい顔して笑うの?僕、何か言っちゃった?」
エドワードの僅かな様子の変化も、アルフォンスは敏感に察知する。
アルフォンスには、隠せない。
「言ってない。ただ、ちょっと…」
「ちょっと?」
「…おまえが、褒めるからっ!ちょっと、ちょっと…」
最後まで言えず、俯くエドワード。
「兄さん?もしかして、ヤチモチ…?」
「っ!わるいかよっ!どーせ、俺はキレイじゃねーし可愛くもねーし知的でもねえよ!!ヤチモチ焼くほうが間違ってるって、ちゃんとわかってるよ!」
半分涙目になりながら、一気にまくし立てた。本当にどうかしてる。こんなことで、ムキになるなんて。
でも。
「可愛い〜!可愛い!可愛い!!兄さん、可愛すぎっ!!」
「…からかってんのかよ」
ぷいっと横を向くと、アルフォンスに頬に手を添えられ、アルフォンスのほうを向かされる。
「からかってるわけ、ないでしょ。兄さんこそ、そんな可愛い顔しちゃって、僕のこと煽ってるの?」
「煽ってなんか…ふうっ…!」
言葉は途中で途切れ、アルフォンスの舌がエドワードの口腔に入りこんできた。
「っ!やっ!」
「な、なんで!?」
「ごまかすなよ!」
キスでごまかそうとするアルフォンスに対して、涙が出てきた。
悔しくて、悲しくて。
「ごまかしてないよ。だって、キスして、愛してるよって言えるくらい好きなのは、兄さんしかいないから」
「だって…」
「ミーハー的な憧れ?きまってるでしょ。僕は一番兄さんがキレイだと思ってるんだから」
下唇を食むようにキスを繰り返し、僅かに開いた口に、自分の舌を滑りこませた。