カフェ『アルケミスト』
□焼いて、焼いて
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出来たマフィンやサンドイッチなどを、紙袋に入れて、アルフォンスが撮影現場に来ていた。
「ええっと…誰に渡せばいいんだろう…」
キョロキョロと見渡していると、知った顔があった。
プロデューサーらしき人と話してる、彼のマネージャー。
普段は人気俳優の敏腕マネージャーだが、一度カメラの前に立つと輝かしいオーラを纏った一流モデルと変わる。
金の髪金の瞳の、誇り高く生きる人。
「あの!失礼します!」
ファンの間をぬって、そばに寄って声をかけると、彼(か)の人が気づいてくれた。
彼は、びっくりしたような顔で、アルフォンスを見ていた。
「近くでカフェを経営してる者です。よろしければ召し上がって下さい。…ファンなんです」
さすがに最後のほうは、照れが入って、声が小さくなった。
「うわぁ!こんなにたくさん!いいんですか!?」
単なる社交辞令的な笑顔かはわかないが、喜びの顔をしてくれた。
「はい。あ、コーヒーも持ってきたので、よかったら」
「ありがとうございます。俺も弟も、『アルケミスト』のアップルパイとか大好きなんです」
「よかった。えっと、じゃあ、頑張って下さい!」
持ってきた両手いっぱいの紙袋を渡すと、それが精一杯で、アルフォンスは来た道をそそくさと戻っていった。
少しドキドキしたけど、喜んでもらえて、心はすごく暖かだった。
嬉しいなと、心から思った。