青と金のキセキ4

□散る花 後編
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 一年のうちほとんど雪に閉ざされた地でも、短い春と短い夏を迎えれば、緑に包まれる地へと変わる。
「どうした、エドワード」
「いえ・・・」
 北方司令部に異動して、数日が過ぎた。
 冷徹な女王将軍も、エドワードが移動してきた経緯を知ってか、一応は師弟の仲だからだろうか、珍しく何かと気にかけてくれていた。
「東方へ帰りたいという顔だな」
「・・・すみません」
 剣の修行をさせてもらったので、見知った顔もいて、さほど東方と変わりなくいたけれど、やはりふとしたことで思い出すのは最愛の弟のことだった。
 仕事の合間に、こうして司令部の屋上に出ては、外の風にあたりながら遠い東方にいるアルフォンスのことを考える。誰にも邪魔されずに、思いにふけるのが日課になってしまった。らしくないと思うが、こうでもしないと、気持ちの平静が保てないような気がして。
「挑んできた者はいるか?」
「いえ。楽しみにしてるんですけどね」
「まったく、腰抜けどもが」
 北方に入って最初に、オリヴィエが放った言葉は衝撃的だった。

「エドワードは、私の弟子だ。気に入らなければいつでも歯向かおうが何しようがおまえたちの勝手だが、エドワードにも容赦なく切って捨てていいと言ってある。ここは弱肉強食の北方だ。軍医とて例外ではない」

 そんなことを言われて、みすみす命を落としにくる馬鹿なヤツもいないだろう。
 東方と違い、住居さえ司令部の中にある軍人にとっては、外から来たエドワードは正しく癒しの大天使だった。
 女性がトップだからといって、潤いがあるとは限らない。氷の女帝より、美貌で名高い軍医殿のほうが、何倍も優しい。
 それに気づいたからは、まるでお姫様のように扱われていることが多くなった。
「思いを寄せるのは勝手だ。マスタングの腕前を拝見するとしよう」
「・・・ここが、気に入らないわけじゃないんですよ?」
「だが、弟がいないからな。いっそ、弟も共に異動してくれば良かったのだが。おまえの弟も、上司に似たのか些か腰抜けだからな。私の部下にはいらん」
「そう言わないで下さい」
「弟という生き物は、なぜああも軟弱なのだろうな」
 そう言うオリヴィエの脳裏には、アレックスのことが浮かんでいるのだろう。軟弱だの腰抜けだの言いながらも、弟への愛情と信頼があることを、エドワードは知っている。
「そろそろ仕事に戻りますね。書類の多さだけは、東方と変わらないんですよ。抱えてる人数違うんだから、もっと考えてくれればいいのに」
「そんな気配りのできる連中だったら、こんなくだらない事態にはならなかっただろう」
 ロイよりも情に流されないオリヴィエは、何があっても冷静に守りの体制を整えて戦いに望む。
 鉄壁の北方。
 東方から追い出され、この地で生活しながら、エドワードはどこか護られている感覚に陥っていた。
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