今日の兄さん(2011年)

□12月18日
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『運命の輪』







 実はエドワードは、まったくと言っていいほど料理が出来ない。
 アルフォンスが考えるに、細かいことを気にし過ぎるのだと思う。『塩少々』という記述に、ミリグラム単位で反応している。適当という曖昧さが、わからないらしい。
 なので、三食ともアルフォンスが作ることになる。昼食など、それこそ買ったり外食したりしてもいいようなのに、エドワードが弁当を欲しがるため、アルフォンスが毎日作っている。
 お互いに帰宅するのは夜遅いけれど、朝もエドワードは10時頃、アルフォンスは11時出勤の自由勤務だから、弁当作るくらいは負担ではない。
「兄さんてば…」
 今日は珍しく忘れて出勤してしまい、アルフォンスの携帯電話に持ってきてほしいとメールが入った。
「研究所の食堂で食べるの、そんなにイヤなのかな…」
 仕方なく、アルフォンスの店に行く前に、ついでに届けにいく。
 恋人のワガママが嬉しかったり、ちょっと面倒くさかったり、占いによく来る女子高生の甘酸っぱい気持ちを体感していた。
 街中から少し外れた所にある研究所は、真っ白な建物が威圧的だ。
「すみません、こちらのエドワード・エルリックをお願いしたいんですが…」
「アル!」
 入り口の受け付けで呼び出してもらおうとしたら、エドワード本人に呼ばれた。
「サンキュー!」
「…はい。せっかく持ってきたんだから、残さないでね」
「おー!」
 嬉しそうに受け取る顔を見ると、言いたかった文句も忘れてしまう。
「あ、あの…」
「ん?」
 受け付けでアルフォンスに応対してくれた男性が、おずおず声をかけてきた。
「そちらの方は、エルリックさんの…?」
「ああ、オレの恋人」
 思わずギョッとしたのは、アルフォンスだけじゃない。
「恋人…ですか?」
「そう。いい男だろ?」
「は、はあ…」
「アル、行こうぜ。まだ時間あるだろ?」
 男性の反応など一切気にかけることなく、アルフォンスを促す。
「あ、うん」
 アルフォンスも、軽く頭を下げて、エドワードの後を追う。
 受け付けから離れてから、兄に声かけた。
「兄さんてば、いいの?」
「なにが?…ああ、ここの連中は、変人ばっかだからな。恋人が同性だとかなんだとか、他人の事なんか今更気にしないんだよ」
「でも」
「受け付けにいたヤツは、オレのこと誘ってたから。驚いたんじゃね?」
 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべている。
 そう言って、外部者も入れる喫茶室に向かう間も、
「あら、エドワード。そのステキな人は恋人?」
「カッコイイだろ?」
「ええ。ジェフに取られないようにね」
「こいつ、オレに惚れてるから」
 など、軽く会話していて、アルフォンスの息が止まりそうだった。
 てか、ジェフって誰だ?
 その日は、研究所を出て占いの店に出勤しても、アルフォンスの頭はどこかボンヤリしたままで、いつもの余裕が無かった。
 生まれて初めて、占いよりもディープな世界があるということをアルフォンスは知った。






end

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