今日の兄さん(2011年)

□12月17日
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『結晶』






 アルフォンスの店には、タロットカードやオラクルカードなど占いに使うグッズやチャームなども販売している。
「やっぱりー、憧れはダイヤモンドよね〜」
「あたし、誕生石トルコ石なのよ。もっと可愛い石が良かったな〜」
 占い終わった女性二人が、ガラスケースに入ったチャームを見て話していた。
 手に取って見れる物もあるが、ケースの中はそれなりに高価な本物の石を使っている。ただし、一つだけ例外はあるが。
「そのダイヤモンドは、ジルコニアなんですよ。ダイヤモンドは高いですからね。そう思えば、本物を使える他の石は、効果があるように思えませんか?」
「…それもそうね」
「うん。そうかも」
 納得したようで、それぞれのチャームを、はしゃぎながら買っていってくれた。
「…いらっしゃい、兄さん」
「なんだ、バレてたのか」
 控えの間から、兄のエドワードが肩をすくめて姿を表す。
「すぐわかったよ。お客さん、いたから…ごめんね」
 自分より細い体を腕に抱いた。
 ふわりと鼻をくすぐる兄の香りに、ドキドキする。
「ダイヤモンド…永遠の愛ねえ…」
 キスしようとしたアルフォンスからスルリと脱出して、ガラスケースに近寄り、中を覗いている。
 羅列している石言葉を、エドワードは胡散臭げに呟いた。
「この世で一番固い石だからね。何物にも、傷をつけることは出来ない」
「傷はつかなくても、割れるけどな」
 化学者らしい兄の言葉に苦笑した。
「カットも出来る。永遠に形を変えない物なんて無い」
「ロマンが無いなぁ…綺麗なんだからいいじゃない」
「そんなのは、おまえに任せる。それより、なあ」
 一枚の写真を差し出された。
「何かの結晶?」
 昔見た、雪の結晶に似ている。それよりも、もっと複雑で綺麗だけど。
「水の結晶だ。水ってな、見せる言葉で結晶の形が変わるんだぜ」
「へえ…」
「人が勝手に決めた石言葉より、ずっとリアルに真実だろ?」
 アルフォンスにもう一枚差し出され、受け取って見比べる。
「そっちの、形が崩れそうなのが『バカヤロウ』って書いたやつ。汚い言葉だと、結晶も綺麗じゃない。面白いだろ?」
「うん。すごいね。で、こっちの綺麗な結晶には、何て書いたの?」
「……『愛してる』」
 どうだロマンチックだろうと、エドワードは偉そうに胸を張ってみせる。その兄の無防備な唇を、アルフォンスは悔し紛れに奪ってやった。







end

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