今日の兄さん(2011年)

□12月14日
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『きっかけ』






 軍の化学研究所で事故があった。東方の管理下にあった施設だったので、運ばれた病院にエドワードが召喚。つまりは、あまり民間の医者には診せられない研究をしていたのだろう。
 丸一昼夜過ぎても、エドワードは帰宅しなかった。
 事情が事情なのはアルフォンスにだってわかっていたし、お互いそれが自分で決めた道だから仕方ないと無理矢理納得させていた。
 三日ほど過ぎて、アルフォンスが帰宅すると、帰宅してボンヤリとソファに座っているエドワードがいた。
「兄さん、おかえりなさい」
「おう。おまえもな」
 シャワーを浴びたらしく、髪が少し湿っていた。
「ああ、悪ぃ。先に風呂使った」
「うん。髪乾かすよ」
 疲れているのに、いつまでも濡れた髪では風邪をひきかねない。
 乾いたタオルで、水気を取っていく。アルフォンスにしたら、慣れたものだ。
「今日さ…」
「ん?」
「ずっと解剖してたんだ。昨日も…生きた人間の手術や治療なんて、最初の日だけだった」
「…お疲れ様。大変だったね」
 事故で亡くなった職員たちのこと。
 運ばれてきたときには死体だったのか、手術や治療しても死者となってしまったのか。
 エドワードは、それ以上は語らない。アルフォンスには聞かせられないくらい、凄惨な現場だったのだろう。
 第一線で戦う軍人も、後方で戦う軍医も、心を削っていく。
「アル、なあ、アルフォンス………しようぜ」
「えっ」
 噛みついてくるようなキスは、エドワードにしては珍しい。
 流されるように、アルフォンスは抱きしめた。







 最悪だ。
 ベッドの中で目覚めたエドワードは、記憶を探って呻いた。
 頭はかなりスッキリしている。
 体も。
 アルフォンスをけしかけたのは自分なのに、事後特有のダルさがまるでない。むしろ、よく眠った分こっちもすっかり回復していた。
 一回達したあたりまでは覚えている。
 問題はその後で。

 やっべー…寝ちまった…

 アルフォンスを起こさないように、静かに悶える。かなりヤバい。相当ヤバい。絶対ヤバい。

 どうしよう…

 素直に謝ってしまうべきか。何事もなかったかのように過ごすほうがいいか…いや、男としてそれはちょっと…
「どうするよオレ…」
 チラッとアルフォンスのほうを見れば、すやすやと安らかな寝息をたてているが、アルフォンスの息子様は元気に目覚めて起き上がっていらっしゃる。

 あああぁぁ…

 再び抱える頭。
 
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