青と金のキセキ

□暑い夏の夜に…
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 深いといえば深かったエドワードの傷も癒え、妙な脅迫状問題も片付いて、医務室でも本来の落ち着いた日々が戻ってきた。そんな時エドワードたちは、そういえば親睦会なるものも一度もやってなかったと気付いた。
 毎日のように、休憩時にはお茶を飲んでオヤツを食べてと女子のお茶会のようなことはしていたが、夜はアルコールどころか食事さえ共にしたことは無かった。日頃からいろいろな話をしているから、わざわざ夜に一席設ける必要もなかったし、仲が良いので職場のグチも無かったせいもある。グチがあったら、その場で溢しているような職場だ。
 上司であるエドワードがしっかり管理していることもあり、セクハラなどもめったにない。そんなことは無くて当たり前だが、看護師に対するセクハラは余所のエリアの軍内医務室では日常茶飯事だったし、医師たちも余りに酷ければ注意するが、多少触られてるくらいなら黙認されるのが通常だった。エドワードが、自分のいる医務室でそんなことを許すはずはない。
 つい先日も、手当てをするピラウの背後に手を伸ばした不届き者がいたが、
「てめー!うちの看護師の尻触ってるんじゃねえよ!叩き出すぞ!謝れ!!帰れ!!」
と、キレて鬼の形相になったエドワードに一喝された軍人が、結果半泣きになって土下座して謝ったほどだ。
 でも、そんなグチ諸々はともかくとして、たまにはこのメンバーで外食も楽しそうだ。幸い身軽な3人だ。早速週末にでもという話になった。
「どこか良い店知ってる?」
「私はあまり…」
「私もー」
 アゴをちょいと持って考える仕草のエドワードも、他の女の子たちが見ればうっとりするかもしれない。
「じゃあ…アルに聞いとく。あいつ、ナニゲにそういう店知ってるから」
「ああ、エルリック少佐なら知ってそうですね」
 あの、歴代モテ男の記録を数々塗り替えている彼なら、洒落た店なんて山ほど知ってそうだ。兄のエドワードが弟の武勇伝を知ってるか知らないか、知らないが。
 トリアの呟きにピラウも複雑な表情を浮かべたところをみると、彼女も上司の弟のウワサは聞いているのだろう。
「…弟さん、よく飲みに行かれるんですか?」
「んー、たまにかな。でも日付替わる前に帰ってくるよ。あんまり外で飲むの好きじゃないのかな。あいつ、意外にシャイなとこあるし、緊張しちゃってあんまり飲めないのかも」
「「…………」」
 緊張。これほど彼の弟に似合わない言葉はない。
 かつて、国最難関の国家錬金術師の試験中に、時間が余ったからと眠ってたという逸話があるくらいだ。 日付が替わる前に帰宅するという理由は、たぶん…
 トリアもピラウも一瞬同じ事を考えたが、まさかそこまでブラコンでもないだろうと打ち消した。
「じゃあ、週末に。もちろん緊急の仕事が入らなければってことで」
「わかりました」
「はーい」
 話は終わったとばかりに三人はお茶セットを片付け、再び午後の仕事に戻っていった。
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