連載小説・T

□芽生え【六ノ刻】
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「睦月」

「ん?」

「笑っても、好いよ」

「どうして?」

「自分でも分かってるから。幼稚な事してるって、馬鹿みたいだって分かってるから。だから笑っても好いよ」




俺だって幼稚だ。


俺だって馬鹿だ。



好いてはいけない相手だと知りつつ、



「俺は、もう笑ってるよ」



どうしようもないくらい樹月に惚れてしまった、



「嬉しくて」



幼稚で馬鹿な人間だ。






だから樹月も俺を笑って好いよ。


気持ち悪いって、気味悪いって、馬鹿にして好いよ。




「嬉しい?」

「うん。こうやって樹月と手を繋げて嬉しい」

「慰めなくてもいいよ。馬鹿馬鹿って笑いとばしていいよ」

「そんなふうに思ってないよ」

「睦月、本当に……」

「本当に思ってないよ」

「本当に?」

「うん」



思う訳がない。




「迷惑じゃない?」

「うん」



むしろ光栄だ。




「信じるよ?」

「信じてよ。樹月、俺を信じて」




俺は樹月の手を自分の唇に寄せた。


そうした事により樹月の反応がとても気になった。




だけど、もう、後戻りは出来ない。


縁側には戻れない。






俺のものに、俺だけのものにしたい。


樹月が全ての人に向ける優しさを、微笑みを、俺だけに向けさせたい。




樹月を支配したい。







俺は俺を解放した。


本物の『立花睦月』を『立花樹月』にぶつけた。




そんな樹月からの返事は、




「うん。信じる」













この日、


俺と樹月は、


互いに生まれ育ったこの家で、


接吻した。












俺の精神は麻痺してしまった。


これが夢なのか、現実なのか区別がつかない。


現実であってほしい。


夢ならば、目覚めなければいい。








俺は休むことなく必死になって樹月に口づけた。


必死になって樹月を抱き締めた。


そしたら樹月も必死になって応えてくれた。




ぎこちなかった接吻が徐々に深く、濃厚になる。







樹月、俺も信じるよ?


後になって、間違いでした。なんてのは無しだからね。


その間違いも、俺が正当なものに変えてみせるから。






幾度か紗重の顔がちらついたけど、この欲望を我慢するなんて無理だった。俺には無理だった。






紗重、ごめん。





応援するふりをして、俺は紗重を裏切った。


いや違う。


最初から裏切っていた。




紗重に嫌われても、樹月には嫌われたくない。












俺の素足と樹月の素足が、わざとではなく、ごく自然に、唇と同じように触れ合った。














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