連載小説・T
□身代わり
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良寛は早い話、樹月と睦月を〔双子御子〕として祭り参加させる事で八重と紗重を守った。
いや、守ったつもりでいた。
でも結果、八重はこんなにも苦しんでいる。
おそらく紗重もそうなのだろう。
自分とて、娘と仲の好い樹月と睦月が可愛くない訳がない。
だが最終的には実の子である娘二人を、娘二人だけを助けたいと思ってしまった。
(私は今、立花ご夫妻から恨まれているのだろうか?)
樹月と睦月が双子としてこの世に生を受けた時点で、立花ご夫妻は覚悟を決めていたと思うが、実際そうなる事が確定すると動揺せずにはいられないだろう。
いっそのこと、立花ご夫妻から罵られた方が幾分か気が楽かもしれないと良寛は思った。
けれども、しきたりはしきたり。
〔特例〕は認められないし、認める事など出来ない。
「八重の言いたい事は分かる。だからといって〔祭〕を中止にする事は出来ない」
良寛のくぐもったその口調から、八重は何も悟れなかった。
でも自分達ではなく、樹月と睦月を選んだ事から、父親は少なくとも自分と紗重を大切に想ってくれているのかもしれない。
愛してくれているのかもしれない。
書斎を出る時、八重のお顔は少しほころんでいた。
でも直ぐに険しくなる。
自分は、自分達は〔祭主の娘〕だから〔紅贄祭〕の犠牲にならずにすむ。
樹月と睦月は、本当は自分と紗重と、そして父親を恨んでいるのかもしれない。
睦月がいなくなる。
その事実が八重に重くのしかかる。
樹月は睦月を殺せるのだろうか?
八重は樹月が睦月の首を絞めてる想像をしていたが、途中から自分の両手が、妹・紗重の首を絞めている光景に入れ代わった。
だけど紗重の表情だけは想像しないようにしていた。
良寛は書斎から遠ざかってゆく八重の足音をいつまでも聞いていた。
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