連載小説・T
□交錯する想い
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「ちとせのお願いをきいてくれたら、ちとせも縁側に行く」
「千歳のお願いだったら何でもきくよ」
「笑わない?」
「笑わないよ」
千歳が足の裏で畳をこすりつける。
そこだけが少し粗めになった。
「……ちとせ、今日、いつきお兄ちゃんと一緒に寝たい……」
「千歳は甘えんぼさんだね」
「〜〜〜/////」
樹月が千歳の頭を撫でる。
千歳は樹月から頭を撫でられるのが大好き。
だって、これは紗重にはやらない。
千歳にしかしない事だから。
この時ばかりは優越感に浸れるのだ。
「睦月も誘って、三人川の字で寝ようか?もちろん真ん中は千歳だよ」
「本当?」
「うん」
千歳がお顔を上げ、樹月を見る。
けれど目にかかるくらいの長さの千歳の前髪が、千歳の目を露にしてくれない。
樹月と同じ長さの前髪。
樹月は妹の前髪をさらりと少し持ち上げた。
細く、それでいて色素の薄い千歳の髪。指通りの好い、さらさらすぎる触りごこちの好い千歳の髪は、また直ぐにお目を隠そうとするけれど、今度は千歳が自分のお手で前髪をどかす。
「千歳、小指だして。約束の指切りしよう」
「うんっ♪」
「千歳もお兄ちゃんのお願いをきいてね」
千歳は返事をしなかった。
でも、こくんと頷いた。
大好きな兄とした指切りの“約束”は守らないといけない。
二人は、いつもより長く指切りをした。
「……ちとせ、いつきお兄ちゃんとむつきお兄ちゃんの真ん中が好い」
「うん、好いよ。僕と睦月の間に座って一緒におまんじゅうと茶菓子食べよ」
そして、お手てを繋いで一緒に縁側へ。
弱視の千歳は夜が嫌い。
夜が怖い。
でも、今日は早く夜がきてほしいと思った。
樹月だけじゃなく、睦月とも一緒に寝れるのだ。
樹月は妹の成長を睦月と一緒に見守りたかった。
見守りたかったのに…………。
前髪の長さは同じでも、睦月に対する樹月と千歳の想いは、全く異なっていた。
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