連載小説・T
□別れの覚悟
2ページ/5ページ
「千歳って、僕達の事よく見てるね」
「『僕達』じゃなくて、『僕』の事をね……でしょ?千歳は樹月べったりだから、樹月の異変に真っ先に気づく」
「睦月にもべったりだよ」
「だって俺、千歳から「むつきお兄ちゃんのお嫁さんになる!!」って言われたことない。樹月はしょっちゅう言われてるのに」
「そのうち言わなくなるよ」
「千歳も、いつか誰かのお嫁さんになるんだろうなあ〜」
「なんか、複雑……」
「「いつきお兄ちゃんのお嫁さんになる!!」って言われなくなるから?」
「ん〜〜〜……」
「言葉を濁すって事は嫁がせたくないんでしょ?まさか本当に千歳のお婿さんになるつもりだったとか?」
「からかわないでよ」
「からかってないよ」
御飯の後、樹月と睦月はこんなふうに縁側で一緒に座りお話をするのが日課となっていた。
お互いそうしようと決めた訳ではないけれど、自然とここに二人で一緒にいるようになった。
一緒にいられる時は出来るだけ一緒にいたい。
祭りの日までは、そんなふうに過ごしたい。
「千歳には幸せになってほしいよ。僕と睦月のようにはなってほしくない。千歳には……辛すぎる」
「千歳が双子で産まれてこなくて好かった」
「うん」
「千歳には犠牲になってほしくない。“普通”に成長してほしい」
「うん」
こうして二人でいても結局は三人になる。
人見知りの激しい千歳が唯一自分から近づく人物。
それが大好きな二人の兄、樹月と睦月だ。
鈴の音が聞こえると、樹月と睦月は顔を見合わせて微笑み合う。
千歳の小走りに合わせて鈴が鳴る。
風で揺れる木々のざわめきとよく馴染む音楽。
.