連載小説・T

□快楽【七ノ刻】
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樹月に口づける度に俺はどこか虚しさを覚えた。


ずっと知りたくて、ずっと触れたくて、やっと知る事の出来た、やっと触れる事の出来た樹月の唇。



愛しい人の、唇。




そんな彼の唇が、ふと冷たく感じ、それは何故なのかと自問自答する。


答えは明確だった。




人は最も大切なものを手に入れた時、それで満足感を得られるのだと思っていた。

俺もそうだと思っていた。




でも……、


だけど…………。




手に入れてしまったが故に失いたくないと思ってしまう。

今の俺は、樹月の体温を、温もりを直に感じる事が出来るけど、蝶となった俺は、樹月と“一つ”になれたとしても、この手で、この唇で、この肌で、この体温で樹月を感じる事が出来なくなる…………。



“それ”に気付いた俺は更に欲張りになり、我儘になり、樹月を独占したくなるだろう。




本当はまだまだ足りないんだけど、最初だし、あんまり長く接吻すると樹月が嫌がりそうだ。


樹月が「もっと」って言ってくれたら、俺の理性は完全に消し飛ぶ。



言ってほしいけど…………。





唇は離したけど身体は離さなかった。


何度も諦めようと、踏ん切りをつけようとしたけれど出来なくて、そして、やっと捕まえた。



絶対逃がさない。



樹月も逃げないでくれる。


でも瞳は逃げられた。


避けて逃げたんじゃない事は分かっている。


分かっているけど…………、




「そんな、あからさまに目を逸らさないでよ。傷つく……」




取り消しにされたみたいで…………。




「あっ!ごめん!!」

「――――って言えば、俺の顔、見てくれるかなぁ〜と思ったんだけど、本当に見てくれた」

「睦月!!〜〜〜もうっ!!////」




今のは策士。

樹月の照れた顔が見たくてそう言ったんだ。


兄は、弟がしかけた罠になんの疑いもせず簡単に引っかかる。


歪んだ俺が、想像を絶するほどの酷い罠を幾重も張り巡らせているとも知らずに。













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