連載小説・T
□快楽【七ノ刻】
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こういうのって、なんて言うのかな?
〔弟〕とこういう事するのって、〔兄弟〕でこういう事するのって、なんて言うのかな?
聞いた事あるような気がするけど思い出したくない。
それはとてもいけない気持ちで、とてもいけない事のような気がするけど、でも僕は、いけない気持ちとは思えない。
いけない事をしてるとは思えない。
いけない気持ちだったら、いけない事だったら、僕は睦月から身体を離し、逃げてる。
今、睦月とこうしてなくて、睦月を一人この廊下に置き去りにして、逃げてる。
逃げないのは、「もっと」と思っているから。
睦月の顔が僕の顔から離れ、短かったような長かったような接吻が終わる。
(僕は今、この人と接吻したんだ)
その事実が嬉しいのに恥ずかしくて、僕はもっと見ていたい睦月の顔から、瞳から、目を背けた。
だけど身体は背けなかった。
「そんな、あからさまに目を逸らさないでよ。傷つく……」
「あっ!!ごめん!!」
僕は急いで顔の位置を戻し、睦月と目を合わせた。
「――――って言えば、俺の顔、見てくれるかなあ〜って思ったんだけど、本当に見てくれた」
「睦月!!〜〜〜もうっ!!////」
これからまた二人で歩く廊下の先。
地平線ではなく、あと数歩歩いたらこの廊下は終わる。
接吻は終わっても、廊下は終わっても、始まったばかりの僕達の関係は終わらない。
ただ、気づくのが遅すぎたけど…………。
人は大切なものを失うと分かった時、初めてそれに気づくんだ。
“それ”に気づいた僕は更に泣き虫になり、我儘になり、睦月を独占したくなるだろう。
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