連載小説・T
□芽生え【六ノ刻】
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俺は、いつまでこの気持ちを抑えていればいいのだろうか?
いつまで隠していればいいのだろうか?
誰にも言わず、誰にも悟られず、黄泉の国にまで連れて行くつもりだったのに……。
そのつもりだったのに…………。
千歳に会う為に歩いている俺の二本足が、俺の直ぐ後ろをついてきてる樹月の二本足と一緒に禁断の地へと向かい、その土地に踏み入れたくてうずうずしている。
その場所は〔虚〕よりも荒んでいるかもしれないけど、俺はその空間にこの身を投じたい。
樹月と、愛する人と一緒に投じたい。
こんな歩き方は嫌だ。
ゆっくり静かに歩いてるせいで樹月の足音が聞こえない。
本当に俺の後ろをついてきているのかと不安になって、寂しくなって、確認しようとして後ろを振り向こうとしたら、
「樹月?」
樹月が俺の手を掴み、握ってきた。
樹月の馬鹿。何でこんな事するの。
何で今、俺に触れてくるの。
間が好いのか悪いのか分からない。
「あっ!ごめん!」
そうは言っても、樹月の手は俺の手から離れようとしない。
俺も払いのけたりしない。
理由は簡単。
離したくないから。
逆戻りして、もう一度縁側から歩きたい。
樹月と手を繋いで歩きたい。
自分から手を繋ぐなんて事は樹月からしたらものすごく勇気のいる事だったのか、樹月の手は小刻みに震え、若干汗ばんでいた。
その手はまるで、熱を出した時の俺の手そのものだった。
「横に並んで、歩こ?」
震えた声で、やや泣き声で、そんなこと言われたら、そんなお願いされたら、断れないし、絶対に断りたくない。
それにこれは、俺からしたらこのうえない幸運にすぎない。
俺は「うん」と返事をして少し後ろに下がり、樹月の隣にぴたりとつく。
その時、俺の足の指と樹月の足の指が触れ合った。
俺がわざとそうした。
「……手は、このまま繋いでても好い?」
と言ってくる樹月に、俺の心は淫らになるが対応は紳士的。
「好いよ」
常識も、理性も、村も、何もかも放り投げ捨て去って、樹月だけを担いで逃げる事が出来たら、そうする事が出来たらどんなに好いか。
でも、捨てられるのは俺なんだ。
見てはいけない場所に、口にする事すら禁じられているその場所に、投げ捨てられるのは、俺なんだ…………。
これで俺と樹月の腰に紅い紐を結んで繋げたら、それはまるで儀式を行う為に前に進んで歩いているみたいになる。
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