連載小説・T

□芽生え【六ノ刻】
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睦月の言うとおり、今日の僕は千歳に酷い事ばかりしている。


千歳は何も知らないのに。


祭りの本当の意味も、睦月がいなくなる意味も、何も…………。




何も知らないからこそ、睦月が突然姿を消したら、千歳は悲しみのあまり寝込んでしまうんじゃあ………。




だけど、もし千歳がそうなっても、僕は千歳の世話をする自信がない。


きっと、僕も千歳と一緒になって寝込むだろうから…………。






睦月、ごめん。


僕、また泣きたくなっちゃったよ。


僕の目の前を歩く睦月の背中に今すぐ飛び付いて泣いてもいいですか?




「しっかりしなくきゃ。こんなんじゃ駄目だ」


と思っても、一度緩んでしまった甘えた心は元には戻せない。


元の場所には返せない。




縦に並ぶのではなく、横に並んで歩きたい。


こんな至近距離にいるのに、睦月が一人先に行ってしまう気がして、幻のようにフッて消えてしまう気がして、怖い。



そんなのは、嫌だ。


嫌だよ、睦月。






「樹月?」




僕の気持ちを読み取ったのか、睦月が振り返り立ち止まる。


でも睦月が立ち止まったのは気持ちを読み取る能力からではなく、僕が睦月の手を掴んだから。


睦月は怪訝な顔を僕に向けている。




「あっ!ごめん!」




そうは言っても、僕の手は睦月の手から離れようとしない。



理由は簡単。



離したくないから。






僕、変だ。


絶対に変だ。



こうして睦月と触れていないと不安でしかたないなんて。



安心したい。




そんな我儘な僕は睦月にお願い事をする。




「横に並んで、歩こ?」

「うん」




あっさり了解した睦月が少し後ろに下がり、僕の隣にくる。


それが嬉しくて、とても嬉しくて、僕は二つめの願いも叶えたくなった。




「……手は、このまま繋いでても好い?」

「好いよ」




二人一緒に歩き出し、狭い廊下が更に狭くなる。


歩きづらいけど、この手を、この人の手を離したくない。



そう願ったら、睦月の手を握る僕の手の力が強くなった。



自分からお願いしといて、僕はかなり照れていた。












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