連載小説・T

□紅い手形【五ノ刻】
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樹月とこんなに密着したのって、もしかして初めて……かな?



そもそも俺と樹月は『双子』なんだ。


双子というものは一緒にくっついて生まれてくるんだから、今、こうやってくっついていたって何もおかしくなんかない。





(死ぬのも一緒だったら、どんなに嬉しかったか…………)



なんて言ったりしたら、樹月はまた泣くんだろうな。



小さい頃は、よくこうやって、密着……とまではいかなくても、一緒にじゃれあって遊んだものなのに。


いつからか、樹月は俺とじゃれてくれなくなり、俺を心配するようになった。




ちょっと走っただけで、熱。


ちょっと気温が変化すると、熱。





熱。熱。熱。熱。






うんざりだ!!!!




高熱ばかりだす俺のこの体も!!!!


対等でいさせてくれない樹月にも!!!!





………でも、もし、これが逆だったら、樹月が熱ばかりだしていたら、俺も過剰に樹月の心配ばかりするだろう。


四六時中、樹月についててあげたくなるだろう。






例えば、お腹をすかせたのら犬と俺の前に山盛りのご飯を出され、食べる速さを競ったら、俺はきっと惨敗する。


俺が半分以上残したのに対し、のら犬は完食。




(俺の胃袋は犬より小さいのか)



こんな事を考えるのは滑稽だ。


だって俺は、今までお腹をすかした事など一度もない。


作ってくれた女中に申し訳ないと思いつつも、俺の脳が、体が、拒食する。


でもさっきのお膳は拒食しなかった。



(樹月の食欲を俺が盗んだのかも)




お腹がすくというのは、どういうものなのかな?


毎日お腹をすかせれば、毎日完食出来るのかな?


お腹をすかした事のない俺は、太れない俺は、誰が見ても、どっから見ても不健康。



普段もそうだけど、熱をだした時の俺は腫物扱い。


だから嬉しかった。


初めて樹月が俺の身体を少しも気遣いせず、俺にぶつかってきたから。




押し倒された時、背中に軽い、いや、けっこうな痛みが走った。


何本かの骨がごりって鳴った。


でも、これは喜びの『音』だ。






いつまでも、こうしてたい。


こうしてたいけど…………。







「落ち着いた?」

「え?」




俺は樹月を抱き締めてた腕を緩める。


樹月は俺が髪を愛撫していた事に最後まで気づかなかった。


それをいいことに、調子に乗って歯止めがきかなくなりそうだったから、歯止めがきくうちに解放しとこう。




「睦月!ごめん!」




樹月のその様子から、俺とこんな体勢で寝転がっていた事を途中から忘れていたみたいだ。


慌てて俺から離れたのは、いつもの樹月が俺にする『体の心配』だろう。




(意識してるのは、俺だけ……か)




樹月も俺を意識してると思うけど、意味は全然違う。



樹月の意識は『硝子細工』


俺の意識は『廃棄物』




でも俺は、この『廃棄物』を捨てられずにいる。



歯止めがきかなくなるとか、樹月に避けられるとか、そんな気持ちは樹月の身体が俺から離れたと同時に俺の頭からも離れた。




俺は解放した樹月を再び手中に閉じ込める。











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