連載小説・T

□紅い手形【五ノ刻】
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僕と睦月が紅贄祭の双子御子として選ばれた時、僕は来るべき時が、運命が、ついに来たんだと思った。


そう思って、腹をくくって覚悟を決めたのに、決めた筈なのに…………。



今、こんなに泣いていたんじゃ、祭りの当日なんてもっと泣いちゃいそうだな。


泣いたって何も変わらない。


泣く事で解決されるなら、泣く事で儀式が取り止めになるのなら、僕はずっと泣き続ける。



だけど現実は厳しく過酷なもの。


甘えた考えは捨てなくちゃ。




でも睦月だけは、睦月だけは捨てたくない。


〔虚〕の中に落とされる睦月を見たくはない。


『人間』なのに『物』のように捨てられる睦月を見たくはないよ!!!!!





こんな迷った心持ちで、僕は祭りを成功させられるのかな?



成功させなきゃ!!!


なにがなんでも成功させなきゃ!!!


失敗させちゃいけない!!!!


そんな事態になったりしたら駄目だ!!!



そうなったら、八重と紗重が……っ!!!









「落ち着いた?」

「え?」




どれくらいそうしていたんだろう?


僕は睦月にしがみついた状態で横になっていた。


いや、睦月を下敷きにしていた。




「睦月!ごめん!」




自分のした行動を冷静になって振り返ってみる。




(そういえば、僕、睦月をおもいっきり突き倒しちゃったんだよね)




病弱な睦月になんて事をしちゃったんだろう。



僕は直ぐさま身体を起こした。


でも僕の身体と睦月の身体は離れなかった。



それは、睦月も僕と一緒に起き上がったから。


しかも、それだけじゃない。




「睦月?」




睦月の両腕が僕の身体を囲む。


囲むというより………、




(これって、もしかして抱き締められてる?)




僕、今、睦月に抱き締められてるよ……ね?




「えっと……、睦月?」




今、睦月のしてる行動の意図は分からないけど…………、



睦月、あのね、僕、睦月とこうしてると、なんだかとても安心する。


そして、なんだかとても緊張する。



何故かな?



安心なのに緊張するなんて、おかしいよね。



睦月にはみっともないとこ見せちゃったけど、見られたのが他でもない睦月で好かった。





「涙、止まったみたいだね」




そう言って、僕から身体を離した睦月の口調と表情が悪戯っ子のようだったから、僕はまた「泣き虫」ってからかわれると思ったけど、そうじゃなかった。


睦月は黙って僕を見つめていた。


その透きとおった黒光りの瞳からは何も悟れなかったけれど、この時の睦月は、僕にも誰にも理解しがたい複雑な想いを抱えているような気がした。












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