連載小説・T

□交錯する想い
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樹月が頂き物の茶菓子を手に、睦月と紗重の待つ縁側に向かおうとするが、樹月の着物を強く掴んでいる千歳が縁側に向かおうとしないので樹月も向かう事が出来ない。


千歳は樹月にひっついてはいるものの、お顔は俯いている。




「千歳もむこうで一緒に茶菓子食べよ」

「ちとせ、お兄ちゃんと一緒が好い……」

「うん。僕も睦月も一緒だよ」

「……………」

「ね?千歳」

「……………」

「さえお姉ちゃんが……」

「紗重も千歳とお話したいって」

「……………」




お地蔵さんのように微動たりとも動かない千歳はとっても頑固だ。


だからといって千歳のお手を無理矢理ひっぺがし、千歳を置いて自分一人だけ縁側に向かいたくはない。



樹月はしゃがんで千歳の目線と自分の目線を合わせようとするが、千歳はまだ俯いている。




「千歳、お兄ちゃんにちゃんとお顔見せて」

「……………」




大好きな兄・樹月の言う事なら何だって聞く千歳が今は反抗している。




「千歳、紗重はお兄ちゃんの大切なお友達なんだ。だから千歳も紗重と仲良くしてほしいな。紗重は千歳にちゃんと挨拶したでしょ?千歳も紗重にちゃんと挨拶しようね」





じゃあ、ちとせは?


ちとせの事は大切じゃないの?





紗重が嫌いな訳ではない。


ただ、大好きな兄を取られたくないのだ。


それは睦月に対してもだ。



今の樹月が紗重に抱いてる『好き』が、いつか紗重と同じ『好き』に変わったら、変わってしまったら…………。


そうなってしまったら、自分はほっとかれてしまうのではないだろうか?


樹月に限ってそんな事はないと思うが、さっき千歳が鈴を鳴らして近付いても樹月は気が付かなかった。


千歳の中では、まだその事が引っ掛かっている。



でも、ここで駄々をこねたところで、兄・樹月は怒りはしないが、困りはするだろう。


幼心といえど、千歳にはそれがよく分かる。


兄の重荷にはなりたくない。


だから一方的なやり方ではなく、ちょっとした交換条件を持ち出す。











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