連載小説・T

□叶わぬ恋。伝えられない恋心。
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紗重は樹月と睦月の幼なじみで同じく双子だから、村での一番の仲良し。



〔皆神村〕では『双子』は『特別』の存在だから…………。




そんな仲良しの紗重が立花家を訪ねる時は、玄関ではなくいつもお庭から入ってくる。


少し、遠慮しがちに。




「紗重、いらっしゃい」




樹月の迎え入れの言葉に、紗重はもう一度「こんにちは」と言って樹月に近付いた。


その途端、千歳が樹月の着物が皺(しわ)になるくらい強く掴む。


睦月は顔は紗重に向けていたが、目線は千歳の手に向けていた。




「あのね、おまんじゅう一緒にどうかなと思って………」




紗重がふろしきからおまんじゅうの入った箱を取り出し蓋を開けた。


その手首が、指が、あまりに細くて、白くて、まるで骨だけのようで………。


樹月は思わず、




「紗重、また少し痩せたんじゃない?」

「え?そうかな?」




面倒見のいい樹月は、家族だけじゃなく、他人にもよく気を配る。


それが仲良しの紗重となれば尚更だ。




「家にも頂き物の茶菓子があったから持ってくるね。皆で一緒に食べよう」




樹月がそう言って障子を開け、その奥へと消える。


その後を千歳もついて行き、一緒に奥へと姿を隠す。



取り残された睦月と紗重。




「私、千歳ちゃんに嫌われているみたいね……」

「千歳は人見知りが激しいんだ。家族以外の人と接するのを極度に怖がる。紗重だけじゃない。紗重を嫌ってる訳じゃないよ」

「ありがとう」




紗重は箱の蓋を閉めようとするが、なかなか上手く閉まらない。


正方形の箱なのに………。



まるで紗重の心の象徴だ。


伝えたい。

でも、伝えられない。


隠して隠して、でも、隠しきれない。




「いいよ、閉めなくて。樹月も直ぐに戻ってくると思うから」




睦月が「押し殺す事はないよ」と、箱を閉める紗重の手を止める。


紗重は「うん」と言って顔を赤くした。


紗重のこういうところ、千歳によく似ていると睦月は思う。




「紗重、顔が赤いよ」

「えっ!?」

「分かりやすい反応」

「睦月君ったら、もうっ!、意地悪!////」

「樹月って、こういうこと鈍いよね」

「……………」

「好いていますって言わないの?」

「そ、そんな……。////」

「紗重が言わないんだったら………」





俺が言っちゃうよ。







紗重が羨ましい。


好いた相手の事を想って顔を赤く染める事の出来る紗重が………。




紗重の恋心を一番理解しているのは、同じ女子である姉の八重ではなく、幼なじみの男子、睦月なのだ。





「睦月君?」




紗重が睦月のお顔を『?』のお顔でまじまじと見つめる。


樹月のお顔は恥ずかしがって直視しないのに。













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