連載小説・T

□別れの覚悟
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次の紅贄祭の双子が決まった。


立花家の双子の兄弟、樹月と睦月に決まった。


祭主の祭司、黒澤良寛は、なるべくなら自分の娘である八重と紗重を犠牲にはさせたくないのだろう。




だから、樹月と睦月を………。





昔からの村のしきたり。


村を守る為ならば仕方のない事。


樹月と睦月も、それは十分わかっている。


〔大償〕がおきてしまったら大変な事態になってしまうから…………。













「いつきお兄ちゃん。お箸進んでないけど、お腹すいてないの?どこか具合でも悪いの……?」




千歳のお膳は食事が半分なくなっていたのに対し、樹月のお膳は女中から出されたままになっていた。


お汁は冷め、湯気は消え、具は底に沈んでいる。


父も母も食欲のない樹月にお声をかけてはくれなかったのに、千歳はお声をかけてくれた。




睦月は………、




「ちゃんと、食べなきゃ駄目だよ」



と、食事するお箸を止めないまま樹月に言った。


いつも樹月が睦月に言っている台詞。






樹月。睦月。千歳。



この三人の中で一番食欲のある樹月が、今は、いや、一ヶ月前から一番食が細くなっている。




「千歳も、今日はいつもよりいっぱい食べてるね」

「いつきお兄ちゃんに怒られたくないもの」




千歳がはにかみながら両手でお碗を持ち、お顔を隠す。




「僕も千歳に怒られたくないから、ちゃんと食べるよ」

「本当?」

「うん」

「いつきお兄ちゃん、ここのところあまりお食事にお手をつけていなかったから、ちとせ心配していたの」




千歳がお碗からお顔を覗かせた。

心配のお顔ではなく、笑ったお顔を。


樹月も笑ったお顔を千歳に向ける。


睦月も一緒に笑った。



父と母は笑ってはいなかった。






睦月が珍しく御飯を残さなかった。












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