連載小説・T

□快楽【七ノ刻】
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俺は、あと何回この人と、樹月と接吻出来るのか。


あと何回この人と、樹月と抱き締め合えるのか。



儀式は怖くない。



でも今出来る事は、今しか出来ない事は、“今”やってしまいたい。

“今”やっておきたい。




「樹月。ちょっと待って」

「え?―――っん!?むっ……っ!!」




考える暇など、拒絶する暇など与えない。



愛し過ぎてしかたない。



四六時中、接吻して、愛撫して、そんなふうに一日を過ごしたい。



俺は樹月に絞殺される前に、樹月を快楽死させたい。




「いきなり、ごめん」

「う、ううん」




俺の呼吸が加速する。

心臓が鐘のように鳴りやまず、こう言っている。




「もう一度したい」と。





千歳に会いたいのに、会いたくない。

千歳の前では樹月と接吻出来ない。


いつも、いつもいつも千歳に譲ってきた。



『時間がない』『日にちがない』という焦りが俺を醜くさせる。


紗重だけじゃなく、千歳までも裏切る俺は、本当に酷い兄で、酷い次男だ。


〔虚〕に落とされて当然だ。



だけど譲れない。渡さない。





「樹月、俺、ふざけてる訳じゃないよ」

「うん」

「本気、なんだ」

「僕も、本気だよ」




唇ではなく手とはいえ、樹月からの繊細な口づけに涙を零しそうになった。


叶わないと思っていた願いが叶ったんだ。



この後、俺に不幸が降りかかろうが、病気が悪化しようが、そんなのはどうでもいい。




「睦月。僕の事も信じて」




白い樹月が黒い俺を救い出す。


卑しい俺をどこまでも許す兄・樹月は、観音菩薩様のような純真な衣を羽織っている。


例え村が闇に囚われても、樹月だけは囚われず跳ね返せるんじゃないかと思った。

そんな樹月を疑いたくはない。




「うん。信じる」





樹月に、


「泣きたくなったら俺の所に来て。俺に隠れて泣いたりしたら許さない」


なんてかっこ好い事を言った俺は、泣きたいのを我慢していた。

きっと樹月も、俺が樹月の瞳を盗んでこっそり泣いたりしたら許さないだろう。

涙だけじゃない。
鼻をすするのも我慢した。


それが樹月に知られたら、樹月は俺を叱るのかな?


好いよ。

叱られるのには慣れている。



だけど樹月を想う気持ちは、樹月と一緒にいるこの生活は慣れない。

いつも新鮮で衰える事がない。






樹月の腕の中は、とても心地好かった。









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